無慈悲な決定
書き始めがサブストーリーっぽいですけど、ちゃんとメインストーリーです。
崩壊暦213年12月15日15:03
帝都東京。大日本帝国最大にして、最強の都市である。その中心には皇居がそびえる。その皇居の地下、御文庫付属庫にて、御前会議が開かれている。
この時代、天皇の権限はより強化され、天皇は、軍部の暴走を防ぎ、政府との折り合いをつけている。もっとも、古代の大王程の権力はないが、それが立憲君主という者である。
また、天皇の意思を政治、軍事に反映させるため、御前会議は頻繁に開かれていた。
「この度、ここで論議を求めるのは、サンフランシスコのパルチザンの対処についてです」
参謀総長、山本中将はサンフランシスコで発生した事変の解決策を決定するよう求める。
「まずは、状況を共有しましょう。ええ、……」
山本中将はサンフランシスコの現状を説明する。
「私としては、サンフランシスコのパルチザン発生地区を焼き払ってしまえば良いと考える次第であります」
まず声高に言を発したのは、軍内でも過激派と名高い陸軍大臣である。彼は都市ごとパルチザンを殲滅することを提案する。
「しかし、それでは今後の抵抗運動の激化を招きますぞ!」
しかし、時の内閣総理大臣、原は攻撃に反対する。
「アメリカ人などという劣等民族、抵抗するもの全て殺してしまえば良い。それに、原総理大臣、この戦争の目的をお忘れか?」
「いや、覚えているとも。ヨミの為、だろう」
「そうだ。アメリカ人など皆殺しにしても、いや、多少は生かしておかんと問題か。サンフランシスコ市民程度ならば、皆殺しにしても構わんのだ」
「しかし…」
原首相は黙りこんだ。
「お二方、宜しいですか?他の大臣の方は、何かご意見はありますか?」
海軍大臣、他の大臣も大方、陸軍大臣に賛成する。
「それでは、天皇陛下。我々は、以下の通りに上奏致します。陛下がお選びください」
山本中将は、上奏する案をまとめ、天皇に判断を仰ぐ。
「サンフランシスコを、焼け」
「御意。直ちに東郷大将に命じます」
「次の議題は………」
崩壊暦213年12月15日16:02
御前会議での決定は、すぐに大和のもとに届いた。
「サンフランシスコごと焼けだと?私は市民の安全を約束したのだ。そのようなことはできない。本土に繋げ」
東郷大将は命令には従わない腹だ。これから本国の参謀総長と掛け合うらしい。東郷大将は本国へと通信をかけさせた。
やがて、東郷大将より遥かに若く、まさに普通という言葉が似合う将軍がモニターに映った。
「山本中将、ご無沙汰だな」
「こちらこそ、サンフランシスコの攻略、おめでとうございます」
山本中将はとりあえず賛辞を述べる。だが、東郷大将には、そんなことはどうでもいいのである。
「早速だが、中将も、連絡した理由はわかるだろう?」
「サンフランシスコ爆撃の件ですね」
「そうだ。その命令、撤回してもらいたい」
「御前会議での決定なのですよ。私ごときには変えられませんよ」
山本中将は肩をすくめる。
「中将は参謀総長だろう。無理は承知だが、確実に私よりは帝国の枢要に近いのは中将だ。何とかしてもらいたい」
「そう言われましてもね。陛下の意向を覆す訳にも……何?…わかった。…そうしてくれ。」
「中将?どうした?」
山本中将はモニターの外の誰かと話をしているようだ。
「ああ、東郷大将?それが、て」
突然通信は途絶えた。
だが、すぐにモニターに別の人物が映し出される。
その人物を見た途端、その場にいた全員が、一切の活動を中断し、立ち上がった。
「東郷大将に命じる。サンフランシスコを焼き、叛逆者を殺せ。これは勅命である。抗命は許されない」
絢爛豪華な白亜の軍服に身を包んだその人物は静かに告げた。その玉音は、この国においては、最大最高の権威である。
「お、仰せのままに。天皇陛下」
「克く、我が意を体せよ」
すぐに、その人物はスクリーンから消えていった。
「閣下、もはやこうなっては、従うしかありません」
東條中佐は現実を告げる。
「そう、だな。第一艦隊には、パルチザン潜伏地域を爆撃させる。準備を」
東郷大将の本意とするところではなかったが、しかし、サンフランシスコ爆撃は決定された。




