表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
2-1_太平洋新秩序の形成
251/720

戦術的降伏

さて、2分後、ジューコフ中将は無事に逃げおおせたようた。ここのトップはパヴロフ少将である。


「閣下、どう、されますか?」


「どうするか、か。お前達、ここで、艦とともに死ぬか?」


パヴロフ少将はそう問い掛けた。もちろん、建前上は、それこそが軍人の名誉ではある。しかし、それに頷けるものは誰もいなかった。


「だろうな。ならばどうする?」


「ど、どうと言われましても……」


選べる道などない。勝てる見込みは絶無。ここで殉死するか、或いは。


「降伏という道がある。どうだ?」


艦橋は静まり返る。しかし、徐々に頷く者も出てきた。どんな屈強な兵士でも、彼らは人間なのである。死ぬのは怖い。


「よし。降伏しよう」


「か、閣下ぁ??」


「何をとぼけた顔をしてるんだ。さっさと動け」


「は、はいっ!」


威風堂々たる覚悟にて、パヴロフ少将は、降伏を決断した。士官らは動き出す。降伏の意思を伝える最上の方法は、放送で呼び掛けることだ。


音響センサーを最大感度にし、マイクの音量を最大にし、パヴロフ少将はマイクを取った。


「そこで爆弾を設置しているレディに告ぐ。我々は、降伏を決断した!然るに、直ちに現下の攻撃を中止し、話し合いの席に着かれよ!」


せっせと爆弾を置いていた彼女は、すぐにその声に反応した。


『おやおや、やっとですか。正直、面倒くさかったので、どうぞ、降伏しに来て下さい。殺したりはしませんよ』


とまあ、この世で信用出来ないものを上げたら、五本の指に入る言葉が返ってきた。だが今は、それに従う他にない。どうせ降伏しなければ死ぬのである。


「そこで待っていてくれ。我々が降りよう」


『はい。早くして下さいね』


パヴロフ少将はマイクを離す。


「ふう……じゃあ、行ってくるぞ」


「閣下お一人で?」


「ああ、そうだな。二人ばかりは書記が欲しいが、後はここに残れ」


こんな人数で行けば、確実に疑われる。やはり、不要な不安を招くべきではない。たったの3名の交渉団は、階段を降りていく。中途で見送ったのは、生き残りの白兵部隊であった。


そして一行は隔壁の前に来た。本来ならば今頃破られている筈の隔壁も、まだ健在である。ひとまずは上手くいったのだろうか。


「開けろ」


「はい」


重い隔壁が、金属の軋む音を立てながら、ゆっくりと上がっていく。そして、ゆっくりと彼女の姿が見えてくる。右眼が潰れ、体のあちこちに穴が開いている、正に化け物といった風貌であった。しかし、今回ばかりは、化け物も静かにしていた。


「こんにちは。先日、大日本帝国に雇われました、クラミツハと申します」


クラミツハは恭しく礼をした。


「あ、ああ。こんにちは。ソビエト共和国国家人民軍のパヴロフ少将だ」


日本的なお辞儀には余り慣れないが、一応、真似をしておいた。


「それで、降伏するのですか?」


「ああ。そうだ。これ以上戦っても、我々に勝ち目はない」


「賢明なご判断です」


こう見ると、本当にただの淑女だ。しかも、血の気の多い兵士よりも、圧倒的に知性的も見える。これが百をも超える兵士を殺したとは、とてもそうは思えない。


「そうですね、まず、降伏は受諾しましょう。但し、条件があります」


「何だ?」


それを決める為にここに来た。


「まず、この艦の制御は、我々が貰います」


「ああ」


当然の要求だ。


「そして、あなた方には、少々、ソビエト艦隊を混乱させてもらいましょう」


「どうやって?」


「ソビエト艦隊に偽電を流し、暫く動きを止めてください」


「我々に、ソビエト艦隊を潰させるのか」


「はい。さもなくば、皆殺しにしてからするまでです」


クラミツハは、やはり悪魔か何かだ。極東艦隊の総旗艦であるソビエツキーソユーズに彼女が来たのも、そういう訳なのだろう。だが、同時に、それをことわりという選択肢はさらさらない。


「わかった。要求はそれだけか?」


「ええ。後は、確認しておきたいことなどは?」


「ひとつある。他はどうなってもいいが、乗組員の命だけは保証してくれ」


「命。なるほど。いいでしょう。ソビエツキーソユーズの乗組員には、一切、手を出しはしません」


「ありがとう。以上だ」


不要なことを要求し、交渉が決裂してはたまらない。相手からすれば、いつでもこちらを皆殺しに出来るのだ。交渉は決して対等なものではなく、いわば、こちらの命乞いのようなもの。これが通れば目的達成なのだ。


「はい。では、ひとまずは艦橋の皆様にはそこにいてもらって、他の皆様には、後方の区画に行ってもらいましょう」


「わかった」


クラミツハの指示で、乗り物の大半は、艦の後ろに押し込められた。また、クラミツハは艦橋へと登っていく。クラミツハは、ジューコフ中将の席を分捕った。


「ああ、そうそう。これから帝国軍の皆さんが来ますので、不要ないさかいは起こさないようにして下さいね」


「帝国軍?」


暫くすると、クラミツハが言った通り、日の丸の機動装甲服を纏った兵士がやって来た。間違いなく日本軍だ。


かくして、戦艦ソビエツキーソユーズは敵の手に落ちた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ