事後処理
崩壊暦213年12月11日06:53
「敵航空艦隊が撤退していきます」
「ならば、こちらも撤退だ」
チャールズ元帥の最後の作戦は失敗した。艦隊は壊滅。航空戦力は拮抗しているが、それだけで勝てる訳ではない。
チャールズ元帥は、引き際をわきまえている男だ。航空艦隊に追撃はさせず、帰投を命じた。
「日本軍から通信が入っています。出しますか?」
「そうしてくれ」
そうして、アイオワのメインスクリーンに写ったのは、強面の軍人だ。
また、通信と言うよりは、ビデオメッセージのようなものである。
「私は、大日本帝国東方方面軍総司令官、東郷五十六である。サンフランシスコに駐留する全アメリカ軍部隊に告ぐ。直ちに降伏せよ。降伏の暁には、サンフランシスコ全市民の安全、捕虜の人道的な扱いを約束する。
繰り返す。………」
「降伏だと」
チャールズ元帥は、恨めしそうに呟いた。もっとも、それは日本軍への恨みより、連邦政府への恨みであった。
「閣下、まさかこれ以上戦うことは考えておりますまいでしょうが、降伏というのも考えにくいものでありましょう。艦載機を落とされたとはいえ、空母は健在。それを失うは愚の骨頂です」
チャールズ元帥に残された道はただひとつだった。
「ああ、逃げるぞ」
「サンフランシスコは放棄、今動かせる艦船のみでロッキー山脈防衛ラインまで撤退する」
チャールズ元帥は苦肉の策を告げた。サンフランシスコはもはや敵の手に渡ったのだ。
「それと、地上に残る友軍には、抵抗せず、降伏するよう伝えてくれ」
サンフランシスコ防衛艦隊は、退却を始めた。
崩壊歴213年12月11日07:35
大和にて。
「閣下、敵艦隊が逃げていきます。追い討ちしましょう。逃がしては、今後の禍根となります」
東條中佐は、逃げる敵を攻撃することを提言する。
「やめておけ、中佐。我が艦隊とて、無傷な訳ではないのだ。敵の都市の真ん中で戦い、勝てる保証はない。敵も、死兵となればその抵抗は壮絶だろう。
それに、サンフランシスコ市民の反感も増すだろう。今後の占領政策に悪影響だ。率直にいって、我々には追撃する余裕はない」
東郷大将は、追撃を許可しなかった。艦隊決戦を制した日本軍にも、余裕はなかったのだ。
「まあ、今回は勝てたんだし、いいじゃないか。な?」
近衛大佐も東條中佐を戒める。
「了解しました。今後は、サンフランシスコの占領政策に全力を尽くします」
「結構」
第一艦隊は、サンフランシスコに次々と降り立った。
チャールズ元帥の命もあり、現地に残った部隊はすぐに降伏し、円滑に事は運ぶと思われた。
現地の米軍は、特に抵抗を示さず、大過なく占領行政の構築は進んでいた。
だが、事態は、そう上手くはいかない。
「サンフランシスコ第7地区で、民兵のものと思われる襲撃が発生しました!」
防衛艦隊撤退の3日後の、その知らせが始まりだった。
その後、各所から暴動、テロ、襲撃の知らせが相次ぐ。
「地上部隊は予備隊を残して全て投入し、直ちに制圧せよ」
東郷大将は、鎮圧を指示する。だが、事態は一向に収まらない。米軍側も混乱している様子だ。
どうも、今回の件に軍は関与していないらしい。
「ひとまずは、それぞれの事案の処理に努めよ。対応は追って通達する」
すでに、サンフランシスコは不穏な空気で満たされている。各所の暴動自体は鎮圧できるが、それが、あちらこちらで起こる。
帝国軍は、ひたすらに対処に追われるしかなかった。




