元老院Ⅰ
サブストーリーです。
ローマ数字リセットします。
部隊は帝都東京である。
東方には未だにアメリカ連邦が残っているが、それも今や黄昏。かつて帝国軍と互角の戦いを繰り広げた大艦隊は壊滅し、その戦力はアラブ連合と同等程度である。よもや敵ではない。
南方も、戦争は暫く続きそうではあるが、平壌の戦い勝利に終われば、戦力はひっくり返る。さすれば、数的優勢を維持し続け、ソビエト共和国に大幅な譲歩を迫ることが可能だ。そして、戦況を聞く限り、敗北の可能性は限りなく低い。
残った問題は、国内統一である。
統一というのは、政治的な意思の統一を指す。外からは一枚岩に見える帝国も、実際は、政策を巡る内部分裂が進んでいるのだ。
臣民には知る由もないが、帝国は、大きく二つに分かれている。
即ち、天皇や華族らを中心とする「皇道派」と、内閣を中心とする「自存派」である。
さて、そんな皇道派の総本山たる皇居では、元老と天皇のみの秘密会議が開かれていた。
「陛下、軍の反対派は粛清し、今や、我々に仇為す者は内閣のみです」
「そうだな。さて、如何に内閣を御すか?」
天皇は問うた。元老達は議論を始める。
「内閣に解散を促し、総選挙を行い、以て好戦派の内閣を組閣させるのは如何でしょうか?例えば、第二党の自由党などがあります」
「確かに、それも一理ある。だが、この時期の解散は、些かか混乱を招くのではないかな?いくら皇国とて、内外に問題を抱えているからな」
「確かに。あまり良き策ではありませんね」
「うむ」
新たな内閣を作る案は、あまり現実的ではないようだ。その理由は、権力の空白が出来るからである。
「ならば、いっそのこと、クーデターを起こし、陛下の親政する政府を作るというのは如何でしょうか?」
「クーデター?先の案よりも現実的ではないと思うが」
「うーむ。難しいことだな」
と、ここで、静観していた天皇が声を上げた。
「その策の何が問題か?」
「へ、陛下?恐れながら、その、問題しかないと思われますが……」
「権力の空白は生じない。それに、内閣は、天皇という機関の輔弼機関である。ならば、帝国に内閣は必須ではない。朕が親政を始めようと、何が問題か?」
「それは……」
皆、黙り込んでしまった。確かに、確かにそれは正しい。内閣が常にあったのも、その実は、慣例に過ぎない。2172年大日本帝国憲法によれば、司法、立法機関は天皇から独立している(一応は最高裁長官の任命などの権限があるが、まったく儀礼的である)が、行政及び軍部は、天皇の輔弼機関という扱いだ。
天皇と内閣が行政の機能を担当している訳である。そして、この機能には内閣の存在は必須ではないという訳だ。
「強いて言うならば、臣民の反発が予期されます」
「朕が説き伏せよう」
「ならば、問題という問題は御座いません」
「良い。これも検討しておけ」
「御意」
かくして、元老院は次の段階へと移行した。




