表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
2-1_太平洋新秩序の形成
241/720

平壌上空へ

崩壊暦214年11月20日03:12


例え月が照らす夜になろうとも、ソビエト艦隊は止まらない。


「何?敵が撤退しているだと?」


「はい。閣下。日本艦隊は続々と釜山へと向かっているとのこと」


パヴロフ少将、ジューコフ中将両名に寄せられた報告は、これまた摩訶不思議なるものである。平壌上空で待機していた日本艦隊が、突如として、平壌を捨てたように撤退し始めたのである。


「何を考えてるんだかな」


「考えられるとしたら、敵の作戦に支障が生じ、平壌の防衛が困難になったか、若しくは罠か、です」


「うむ。罠ねえ」


ソビエト艦隊は、東郷大将の艦隊が全滅した経緯を知っている。その為に慎重策を取ってきたが、敵にそのタネが割れて可能性がある。いや、恐らくは既にバレているだろう。 


これに対して、敵は単純に、乗り込み攻撃が効果なしの判断し、作戦の建て直しを迫られたのか。或いは、これを利用してソビエト艦隊を誘い出す為の罠か。


残念ながら、こちらにそれを知る術はない。だが、少なくとも、敵艦隊がいないのは事実だ。


「罠があるとしたら、どんなものが考えられる?」


ジューコフ中将は、艦橋中に尋ねる。


「空港ごと我々を攻撃するとか、ですかね」


とある乗組員の言葉が、ジューコフ中将の耳に留まった。


それは、米軍がデトロイトで披露してくれて作戦の焼直しである。デトロイトでは、都市ごとに日本軍を殲滅する計画が実行されたが、確かに、そこまでやる必要もない。飛行艦が着陸するであろう空港に、爆弾なりを仕掛ければいい話だ。なるほど、あり得そうな話である。


「後は、そもそも艦隊がいなくなってはいない、という線は、どうでしょうか」


「ん?どういうことだ?」


「はい。ええ……」


こちらは、ロッキー山脈での戦闘の焼直しである。ロッキー山脈で米軍は、あらゆる種類の迷彩を艦施し、ついに艦隊を隠し通した。確かに、技術的にこれが可能である以上、平壌に敵が潜んでいる可能性は否定出来ない。


「わかった。色々と考えられるものはあるな。と、すると、どうするかだが」


半端に意見を募ったのが間違いだった。思ったより多くの可能性が予測され、無駄に不安が高まっただけである。


「閣下。ならば、平壌を空爆してしまえばいいのではないでしょうか」


パヴロフ少将は言う。


「空爆?そんなこと、ただの虐殺じゃないのか?戦時国際法違反甚だしいが」


確かに、確かに平壌を火の海にすれば、罠もへったくれもないだろう。だが、それで良いのかと言われると、答えはまず否である。ジューコフ中将には、ソビエトの軍人として、アメリカ人のような真似は出来ないのだ。


「いいえ、閣下。空爆は、空港などの主要な区画のみで十分です。艦が留まれるのは、大方そこらしかないです」


「なるほど。それもそうだな」


どんな罠であろうと、それは空港、若しくは、それに代用出来る広場に仕掛けられる筈である。地雷を埋めておくのも然り、艦隊を隠しておくのも然りだ。そこさえ瓦礫の山にしてしまえば、危険はないだろう。そして、これさえすれば、粗方の罠は無力化される。


「これだな。よし。全艦に、平壌空爆を命じよ」


「了解」


やがて、ソビエト艦隊は動きだす。


ソビエト艦隊は、もぬけの殻(と思われる)平壌を完全に包囲する。そして、戦艦、巡洋艦は、飛行艦が着陸出来る程の空間全てに狙いを定めた。その間、敵からの妨害は一切なかった。


「準備完了」


「わかった。全艦、撃ち方始め!」


この日、ソビエト艦隊が初めて撃った砲弾は、敵に対してではなく、都市に対してであった。


砲弾が着弾する度、地面からアスファルトが撒き散らされる。弾痕は数メートルのクレーターとなり、それが次々と現れる。次々と地面が耕され、ついに、おおよそ舗装路と言えるものはなくなった。


「命中率、87%です」


「低いな。はあ、それが限界なのか」


「恐らくは」


いくら動かない目標でも、数十kmも離れた距離での砲撃では、どうしても流れ弾が出てしまう。案の定、既に幾つかの建物を破壊してしまった。もっとも、避難勧告の為に犠牲者は出なかったが、それでも、これはあまり心地のよいものではない。


そして、パヴロフ少将らの危惧は外れ、罠とおもわれるものは何もなかった。残ったのは、ただの廃墟だけである。


「まあまあ、これで安心だな。全艦、平壌へと進め」


安全を確保したソビエト艦隊は、平壌への包囲を狭めていく。


「どうやら、敵はただ恐れをなしただけのようだな」


「はい。もっとも、純軍事的に考えれば、これが最も妥当ですが」


「そうだな」


日本艦隊は本当に撤退したようだ。とは言え、まだまだ釜山には敵艦隊がおり、戦争が終わった訳ではない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ