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終末後記  作者: Takahiro
2-1_太平洋新秩序の形成
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和泉にて

崩壊暦214年11月19日19:13


ちょうど三日月を1日だけ過ぎてしまった月が浮かんでいる。月明かりの下には、帝国艦隊60余が浮かんでいる。この艦隊こそ、帝国が近衛艦隊である。


と言うのも、帝国軍の主力(とは言え2個艦隊だが)は全て東方に回されていおり、残るは最後の砦、近衛艦隊だけなのだ。また、それを悟られない為、普段は派手な塗装も、極めて地味なものに上塗りされている。しかし、その艦内の豪華さは変わらない。


第一近衛艦隊旗艦「和泉」では、膠着した戦闘を打破する為、作戦会議が行われていた。


陸軍の方では簡素な会議室も、和泉のそれとなれば、一流のホテル並みの装飾に囲まれ、天井にはシャンデリアまで付けられている。本当に、無意味なくらいに立派な艦だ。


だが、そんな中には、艦の装飾とはおよそ正反対の者達が訪れている。


「どうも。初めましてだな。俺こそ、噂のネサクだ」


場違いな鬼面を被った男、ネサクは、立ち並ぶ軍官に対し乱暴に挨拶をする。


「初めまして。別段噂にはなっていないクラミツハです」


こちらは、ここが戦場とも言わんばかりに機動装甲服を纏った女だ。感情というものが感じられないが、まあ、案外ユーモアは口にするらしい。


「両名の訪問、感謝しますよ。また、東郷大将の馬鹿を殺して下さったこと、帝国を代表し、感謝します」


議場の中でも特段に豪華絢爛な軍服を着た将軍、第一近衛艦隊総司令官、鈴木大将は、深々と頭を下げ、そう言う。


「だがな、当の大和には逃げられちまったからな。悔しいな」


「いえいえ。艦隊は壊滅し、東郷大将は死んだ。これで以て、帝国に仇なす者は滅んだでしょう」


「そ、そうなのか?」


ネサクにとっては、敵を一人残らず殺すことこそが勝利らしい。合理主義の鈴木大将とは、少々価値観が異なるようである。とは言え、この大勲位菊花章ものの活躍は、称賛されて然るべきものである。


「で、何で俺らを呼んだんだ?」


「それはですねえ、あそこで浮いているソビエト艦隊を殲滅して欲しいからです」


「ま、だろうな」「でしょうね」


案の定と言うべきか、鈴木大将は、この二人にソビエト艦隊への攻撃を要請した。


「だが、俺達が東京でしたことは、向こうに伝わってるんじゃないのか?」


「ええ、恐らくは。ですので、あなた方には、即座に敵を殲滅して欲しく、ここにお呼びしたのですよ」


「俺達に()()と?」


「ええ」


東京攻防戦においては、ネサクもクラミツハも本気を出してはいない。屍人をある程度誘導した程度だ。だが、それでは足りないと鈴木大将は言う。彼ら自身が前線に立って戦えば、相当に、強い。


「構わないが……だろ?クラミツハ」


「はい。構いませんよ」


「だろうな」


そもそも、こんな所で機動装甲服を着込んでいる女である。白兵戦を忌避する筈もないだろう。


「だが、一つ聞いていいか?」


「ええ、なんなりと」


「そもそも辿り着けないという可能性は?」


辿り着けない可能性、即ち、全ての震洋が撃墜される可能性である。東京攻防戦の情報が伝わっているならば、ソビエト艦隊は相当に重厚な対空砲火を展開するだろう。その場合、作戦は何の効果もなく終わりかねない。


「それに関しては、もう策を立てていますよ。ご安心下さい」


「ほう。だったら、俺達はお門違いと言ったことろか。それは任せるよ」


鈴木大将は、そんなことは折り込み済みであるらしい。まあ、安心して戦えるのならば、ネサクに文句はない。


「それで、どの船を狙うのですか?流石に人手が足りないもので」


クラミツハは、相変わらず事務的に尋ねる。だが、それは最も必要な情報である。


「狙うのは、敵の総旗艦、戦艦ソビエツキーソユーズが第一です」


「では、そこに私が斬り込みます」


「ええ。お願いしますよ」


敵の旗艦を沈めれば、こちらは優位に立てるだろう。クラミツハがそれを担当するとともに、ネサクは、屍人全体を操って敵艦隊を殲滅することとなる。


「他に質問は?」


「いいや」「いえ」


「そうですか。では、またも帝国軍の為、よろしくお願いしますよ」


「任せとけ」「お任せ下さい」


この二人は去っていった。さて、作戦が始まる。ネサクやクラミツハは白兵戦に備え、震洋も離陸に備える。


そして、近衛艦隊は()()()()()退()()()のであった。



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