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終末後記  作者: Takahiro
2-1_太平洋新秩序の形成
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停滞前線

「さて、どうしようか」


ひとまずは艦隊を停止させ、ここからは、ソビエト艦隊のシンキングタイムである。日本国艦隊が壊滅したという報を受けても、案外艦橋は落ち着いている。


「しかし、対策も思いつきませんね」


「ああ。検討もつかんよ」


対策というのは、敵の新兵器に対するそれである。東郷大将は、恐らくは最善を尽くしてそれを迎撃した筈だ。しかし、大して効果はなかったようだ。と、なると、こちらには打つ手がない。


「艦載機は全力出動。全てのエネルギーを対空砲に回せば、あるいは……」


パヴロフ少将は言う。


「確かに。まあ、それしかないんだがな」


ジューコフ中将もそれには同意である。


日本国軍から寄せられた報告を見る限りでは、その防空体制は万全ではなかった。艦載機のスクランブルは間に合ってはいなかったし、対空砲火もスカスカなものだった。


では、最初から備えていれば何とかなるのか。はっきり言ってわからないが、しかし、少なくともこちらは情報を手にしている。情報というものは近代戦争の最終兵器であって、全然戦局を左右し得るのだ。


これは戦争以外でも適用される公理であって、事実、旧ソ連のKGB(カーゲーベー)、旧アメリカ合衆国のCIAなど、様々な組織が情報を巡って暗躍してきた。もっとも、CIAなどは世界各地でのテロ行為に加担してきたという経歴を持つが。


「わかった。対艦兵器はひとまず寝かせ、対空兵器を全力で稼働させよ。また、戦闘攻撃機部隊は、全機、出撃に備えよ」


「「「了解!」」」


ソビエツキーソユーズの艦橋が動き出すと同時に、全艦隊もまた動きだす。使わない主砲は待機させ、艦側面の対空砲を全て稼働させる。各空母の上では、全ての艦載機がエンジンを回している。


そしておよそ5分後。


「準備完了です」


「了解だ。それでは、全艦、前進を開始せよ。防御を常に固め、敵の攻撃に備えよ」


さて、ソビエト艦隊160隻余は前進を開始する。ソビエトの艦は、側面、正面など至るところで鎌と槌の紋章が輝いている。見映えするかはともかくとして、視覚へのインパクトはあるだろう。また、いつでも対空戦闘が可能なよう、一糸乱れぬ陣形を保ちつつ前進していく。


このように倍以上の艦隊が迫ってきているのであれば、尋常なる指揮官であれば、何らかの行動を起こすだろう。しかし、何れもは動かなかった。これは日本国軍が壊滅した時の状況と似て、艦隊を非常に不安にさせていた。


「まだ来ないのか?」


しかし、ジューコフ中将だけは、スターリンの訪問を待つ子のような目で戦局を見つめていた。


「はい。閣下、あくまで、我々は快勝するべきなのです。映画的な決闘など望むことはなきよう」


「そうか?ソビエトの人民たるもの、ロマンを望まないかな?」


「いいえ。ソビエトの人民たるもの、科学的に合理的な行いをすべきです。アメリカやらナチスやらとは違いますから」


パヴロフ少将は、きっぱりと否定してみせた。


「お前は、人に汚名を付けるのが好きだな」


「事実ですから。閣下はくれぐれも、シロ(資本主義者)のような思考に陥らないで下さいね」


「ああ。わかったよ」


一応は艦隊総司令官であるジューコフ中将だが、彼の意見はわりかし無視されている。その代わり、発言力が高いのは次官のパヴロフ少将で、その慎重策がおおよそ、ソビエト艦隊の意思となっている。


とは言え、そのせいで戦局が進まないのもまた事実。相変わらず日本艦隊は動かず、膠着状態が続いている。


「そろそろ包囲を狭めようか」


「ふむ……そうですね。少々攻勢をかけてみましょうか」


「ああ。全艦、防空体制を維持しつつ、敵を囲い込め」


さしものパヴロフ少将も、これには焦れったくなってきてようだ。本気で攻撃をする訳ではないが、敵にその動きを見せてみる。これて、敵の出方を見ようというのだ。


「さあ。来るか?」


「きたらいいですね」


パヴロフ少将は棒読みで応えた。


「距離、50kmを切りました」


「もう少しだけ前進せよ」


50kmというのは、戦艦の主砲が有効である最長距離である。ここまで来れば互いに砲戦も可能だ。殊、日本軍の主砲は強く、ここは戦局の山場である。


カチカチと時計は進み、艦隊もそれに合わせ進んた。


「距離、40km」


「一旦止まれ」


「はっ、了解しました」


しかし、平壌がソビエツキーソユーズの射程に入る地点に達しても、敵はついに動かなかった。


再び戦線は膠着し出した。ジューコフ中将にも、一抹の不安が芽生えていた。




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