東京攻防戦Ⅻ
艦橋は、慌ただしく動き出した。
「艦隊との接続、完了しました」
「よし。スクリーンに映せ」
そして、現在の戦況が、メインスクリーンに映し出された。しかし、それは、非情なるものであった。
前線の戦艦は、大和を除き全て、敵の手に渡ったか沈んだ。そして、その殆どは今や敵である。巡洋艦も多くが沈んだ。比較的無傷なのは駆逐艦であるが、これにも敵の手は迫っている。
「全艦、DV空域まて後退せよ」
艦隊は後退を始めた。大和の復活によって、バラバラであった艦隊は、徐々に秩序を持ち始めている。しかし、如何に足掻こうが、時既に遅しだ。
「閣下!前衛が全く反応しません!」
「くっ。それは、諦めろ。屍人に制圧されたと思っていい」
駆逐艦は良く動いているが、前線の艦は全く動かなかった。こちらを攻撃してくる訳でもない。とは言え、こちらに残された前衛は、数隻の巡洋艦と大和しかない。
対して、敵は、圧倒的な戦力でこちらを半包囲しているのだ。
「後退だ!更に2km後退しろ!その為、駆逐艦には、全ての対艦ミサイルを撃たせろ!」
敵の砲撃を浴びながらも、東條少将の艦隊は後退していく。また、駆逐艦隊は、一斉に対艦ミサイルを放った。後先考えない程の勢いに、敵も多少は動きが鈍る。
「航空艦隊にも攻撃を命じよ!」
航空艦隊は、第二艦隊が裏切った時に、大きく損耗した。第二艦隊は、問答無用に空母に着艦していた航空艦隊を攻撃したのだ。しかし、未だに数の上では勝っている。航空艦隊もまた、敵艦隊に接近し、対艦ミサイルを放つ。駆逐艦からのものも合わせれば、相当な数の対艦ミサイルだ。
「効いてます!敵艦に損傷多数!」
「よし。このまま後退し、陣形を立て直す」
「了解!」
まだまだ戦況は厳しいが、何とか希望が見えてきた。敵との距離は、確実に離れてきている。対艦ミサイルの飽和攻撃も、この特異な戦力比では、かなり有効なのだ。それは、こちらの戦力が駆逐艦に大きく偏っているからだ。
「大和を中心に、巡洋艦を横に並べ、盾にせよ。また、航空艦隊は、制空権の確保に努めよ」
東條少将は、簡易的な艦隊を造り出していく。これで、何とか戦える陣形ができた。駆逐艦や空母も、整然と整列していく。
しかし、そこに、更なる報せが届く。
「かっ、閣下!沈黙していた戦艦が、動き出しました!」
「なにっ!くそっ!更に陣形を下げろ!」
味方であった筈の戦艦は、突如として動き出した。しかしそれは、屍人との白兵戦を制したからではない。逆だ。彼らは、負けたのだ。艦は、最早、屍人の支配下に置かれたのだ。
そして、敵の戦力は、絶望的な程にまで増えた。戦艦は4倍となり、巡洋艦もおよそ3倍となった。
東條少将は、ひたすらに陣形を下げ続けた。しかし、勝ち目がないことは明らかだった。
彼のアレクサンドロス大王ですら、精強なファランクスがなければ、ペルシアの大軍を打ち破ることは出来なかっただろう。そして、今こちらにあるのは、僅かな戦列艦な寄せ集めと軟弱な駆逐艦のみだ。
「勝てるわけがないだろ。こんなの」
東條少将は、静かに拳を机に叩きつけた。残酷な現実は、彼を打ちひぐに十分だった。
「か、閣下。後退を続けますか?」
「そうしてくれ」
一応は抵抗も示す程の力は残されている。しかし、それだけだ。いくら善戦しようと、いつかは数で押し潰されるだろう。ハンマー作戦に訴えたくても、敵の方翼を破る戦力すら、ここには残されてはいないのだ。
「閣下。そんな沈まないで下さいよ」
近衛大佐が声を掛けてきた。
「大佐殿。ですが、これはもう打つ手は……」
「閣下!」
近衛大佐は、これまで聞いたこともない強い声で、東條少将を呼んだ。東條少将も、一瞬体をビクつかせてしまった。
「貴方はもう中佐ではないんですよ。今は少将です。ここのトップです。ですから、もっと気張ってくれないと、困りますねえ」
「そうです、ああいや、そうだな」
「そういうことですよ」
近衛大佐は、再び、いつもの酔っぱらい然として感じに戻った。そんな姿は、東條少将の心に響いたようだ。彼の目に、光が戻った。
だが、そんな時、一本の通信が入ってきた。
「閣下、海軍からです。海軍から、それも、公開チャンネルでかかってきました」
「海軍?繋げ」
唐突に入ってきた通信は、海軍からのものだ。そして、メインスクリーンに一人の将軍が映る。
「鈴木中将閣下ですか!?」
「そうだ、少将。元気にしていたかな?」
メインスクリーンに映ったのは、東郷大将の同期、帝国太平洋艦隊総司令官の鈴木中将であった。




