時計塔にてⅣ
サブストーリーです。
アデナウアー大統領率いる一団は、荒野に佇む時計塔にやって来た。屍人が彷徨く大地も、ヘリコプターを使えばひとっ飛びである。
もちろん、これは非公式な会談である。欧州合衆国側は、アデナウアー大統領と少数の側近と護衛のみ。相手側は、一人の少女を中心とした黒衣の一団であった。
「私たちに、脅威が現れました」
白い髪の少女は、話を切り出した。この少女、黒衣の集団の姫か何からしいが、素性は一切不明である。しかし、少女は、黒衣の者共の信頼を全然受けていると見える。
「脅威?何ですかな?」
「焔の連中です。彼らは、天皇と共に、世界の支配を目論んでいます」
「世界の支配?そんな子供じみたことを、大の大人がしますかね?」
と、アデナウアー大統領は、目の前の子供に言うのであった。対して、その少女には、若干の怒りが湧いていた。ただ、実際のところ、これ以上の説明も思い浮かばない少女であった。
「あのですね、そういう皮肉を言われるのには慣れてるんですけども、どうしても怒りを抑えられないんですよね。アデナウアー大統領、私が今何才か、知ってます?」
少女は、先程の真面目な雰囲気を消しとばし、早口にまくし立てた。しかし、アデナウアー大統領は、余裕の表情であった。
「231才、でしょう?」
「え。な、何で知ってるんですか!?」
少女は、激しく狼狽した。そういうところは、全くもって子供なのである。それこそが、常々舐められている原因だろうに。
「ああ、原首相から聞いたんですよ。いやー、流石に私も驚きましたがね」
「原首相ですか。……今度は絶対鉄とタングステンの量減らしてやる」
少女は、渾身の怨嗟の声を上げた。
「姫様、落ち着いて下さい」
「ああああ、ごめん。ふう。では、本題に入りましょうか」
少女は、すぐに落ち着きを取り戻した。
「何がお望みですかな?」
アデナウアー大統領は、さっきまでのからかいを、好きではあるが、止めた。アデナウアー大統領も、そこまで暇じゃないのである。そもそも非公式の会談を、無為に長引かせる訳にもいかないのだ。
「まず、簡単なことで、奴らをヨーロッパに入れないで欲しいです。」
「なるほど」
それくらいは簡単なことである。欧州合衆国としても、面倒な火種には入ってきて欲しくはない。アデナウアー大統領は快諾した。
「次に、奴らを封じ込める為、ソビエト共和国、アメリカのチャールズ政府、日本国との関係を改善し、この大同盟でもって大日本帝国と相対せるよう、調整をお願いします」
続く少女の希望は、なかなかに強烈なものだ。恐らく、それは原則論であろうが、長年対立するソビエト共和国との関係を改善するとは、かなりの難儀である。
「あくまで、長期的な要望です。今すぐには、奴らをヨーロッパから追い出して頂ければ、それで十分です」
「わかった。私としては、概ね、応じられると考えていますよ。まあ、大臣達と交渉しておきますよ」
「頼みます」
「で、次の話ですが……」
彼らの会談は、存外長く、小一時間は続いた。その後、アデナウアー大統領は、ひたすらに言い訳を各方面に繰り返すこととなった。
この子かわいい。




