サンフランシスコ最後の抵抗Ⅰ
長いので、二つに分けます。
あと、今さらなんですが、「屍人」は、「しびと」と読みます。ただ、アメリカではゾンビって呼んだりするので、それは大して重要じゃないです。
崩壊暦213年12月11日05:47
「敵戦闘攻撃機、来ます」
敵は僅かに残った戦闘攻撃機をけしかけてきた。
「対空砲、ミサイルで迎撃せよ」
東郷大将は落ち着いて対応を指示する。この程度ならば、炸裂弾を使わずとも対応できる。
「て、敵が我が艦隊を通過して行きます!」
「回っている?攻撃もせずか」
米軍は不可解な行動をとり始めた。第一艦隊の周囲をひたすらに旋回し、特に攻撃もしてこない。それは、餌に群がる鳥のようだった。
しかし、攻撃しない代わりに、ミサイルの回避率は非常に高い。第一艦隊の対空砲火は効果がないようだ。
「閣下、炸裂弾も使いましょう。いつ何をしてくるかわかりません。大和、できるか?」
東條中佐は大和に問いかける。
「はい」
「いや、止めておけ。今は対空砲で十分だ。炸裂弾はまだ使うな」
東郷大将は、あくまで、いつも通りを求める。不用意なことはすべきではないというのが彼のスタンスだ。
そして、東郷大将の予見は的中する。
「敵艦隊、動き出しました。敵の全艦がこちらに向かってきています」
「来たか」
「まさか、我々の作戦の焼き直しでもしようと?敵はそんな見え透いたことを…っ!どうした!」
その時、突然、大和に地震のような振動が走る。加えて、電力が不安定になったのか、モニター群が明滅している。
「第一エンジン被弾!」
初の大和の被害報告だ。しかも、エンジンがやられたらしい。もっとも、平常時の最高速度が平均の二倍である大和からすれば、戦闘にさほど支障はないが。
「何に撃たれたんだ!」
「上です。敵の戦闘攻撃機が攻撃を開始しました!」
敵艦隊の突撃と同時に、上空の戦闘攻撃機が攻撃を始めた。ついに、鳥は襲いかかってきたのだ。
「対空砲火を集中せよ。敵は回避できないはずだ。各艦、落ち着いて対応せよ」
東郷大将は、冷静に指示をする。
しかし、東條中佐は即時殲滅を提案する。
「閣下、今こそ、炸裂弾を使う時です。許可を!」
空からはミサイルが降り注いでいる。もはや敵は全ミサイルを撃ち尽くすつもりのようだ。
「中佐、敵の狙いは、まさにそれだ。本命は艦隊の攻撃だろう。主砲は敵艦隊に向けておく」
「…了解しました」
炸裂弾を使わなければ迎撃できない訳ではない。東條はおとなしく従った。
だが、そこで、東條中佐はあることを発見する。
「駆逐艦を守っている?」
東條には、敵は、戦艦、巡洋艦を盾に、駆逐艦を守っているように見えた。駆逐艦を守ることのメリットと言えば…
「対艦ミサイルか!敵の狙いは」
「ああ、そうだろうな、中佐。では、中佐はどうするかね?」
「私ならば、対空砲火を艦隊前面に集中します」
「結構。そうしようじゃないか」
二人は対応策を共有した。米軍の対艦ミサイルは、現時点で最大の脅威だ。大和とて、まともに撃たれれば最悪、轟沈もあり得た。
「全主砲、五八式対空ミサイルは艦隊前面をいつでも撃てるようにしておけ。それ以外の対空砲は引き続き迎撃を継続せよ」
東郷大将は、対艦ミサイル迎撃態勢をとるよう命じる。だが、それは、上空の敵への迎撃能力の低下を意味した。
「島風、榛名、葛城被弾!」
「今は耐えるんだ。もう少しの辛抱だぞ」
現状、対艦ミサイルに備えるため、大半の火器を前方に向けている。上に向かっているのは、貧弱な対空砲のみ。敵からしたら、撃ち放題同然だ。
「吹雪、雷被弾!」
「もう少し、もう少しだ」
なおも第一艦隊は撃たれ続けている。各所で火災が発生し、煙が立ち上っている。
勝利のためには、ひたすらに耐えるしかなかった。