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終末後記  作者: Takahiro
1-6_内乱
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東京攻防戦Ⅴ

大和にも、艦橋の下には指揮所がある。ここを抑えれば、大和の戦闘力は大きく低下するのだが、敵はここに興味はないようだ。敵は、艦橋に一直線に迫ってきている。


そして、檣楼下の広場では、まだ見えぬ敵へと機関銃の銃口が向けられている。その先には、一枚の隔壁がある。今、その隔壁にはヒビが入ってきている。屍人には、爆薬で隔壁を破る術が教え込まれているようだ。


「総員、構え!」


牟田口大尉の号令で、兵士は小銃や機関銃の引き金に手をかける。


「さあ、来るぞ」


いよいよヒビが大きくなってきた。隔壁がゆっくりと崩れ落ちていく。兵士は、ただその先を見つめる。一切の言葉もない。ただ、その時を待つ。


実際に待ったのは、精々30秒程度だったのだろう。しかし、それは、数時間とも思える時間であった。


そして、


「撃て!!」


遂に隔壁が根本から倒れた。敵が迫る。


その瞬間、100程の銃器が一斉に火を噴いた。吹き出す火薬の炎は、辺りを照らした。凄まじい銃声は絶えることはなく、耳が壊れそうだ。


腐るほどの弾丸が、屍人を襲う。銃声の同じだけ、鉄と鉄が弾かれる音がする。だが、あまりの弾丸に、屍人も下がっていく。


「いけるぞ!撃ち続けろ!このまま押し返せ!」


屍人の装甲も徐々に剥がれていく。そして、その隙間に弾がめり込む。屍人は、手足をあらぬ方向に曲げる。次々と手足は吹き飛び、血が飛び散る。


全身を撃ち抜かれると、屍人もやっと死んだ。ぐちゃぐちゃになってもなおも動いていた屍人は、兵士らの嫌悪を向けられるには十二分であった。


状況は、今のところ優勢だ。屍人は全くこちらに来ない。一歩でもこちらに迫れば、全身を蜂の巣にされるのだ。


廊下の奥には、なおも屍人が犇めいている。しかし、そんなものは最早脅威たり得ない。前から順に、屍人はたんぱく質の塊となっていく。機関銃の威力の前には、屍人の皮膚など紙に等しい。


「大尉殿、これなら、勝てますね」


「ああ。流石に、これを越えられはしないだろうな」


牟田口大尉は、自信満々に言う。屍人が走り出そうと、一瞬で足を打ち砕ける。屍人が何をしようと、この陣地は崩れないだろう。


「ですが、機関銃がないと、屍人と戦うのは厳しそうですね」


「ああ。そうなると、大和の奪還はなかなか厳しいな」


「ええ」


実際のところ、屍人を貫いているのは、殆どが固定の機関銃だ。小銃は、装甲が剥げた箇所を後追いする程度である。だが、機関銃を持ち運び、ましてや、手持ちで撃つなど不可能だ。


防衛は出来るが、既に屍人に占領された区画の奪還は困難だ。


「ひとまずは、ここの屍人を殲滅しましょう」


「ああ。やってやろう」


そう言うと、牟田口大尉は小銃を構えた。そして、屍人の装甲の隙間を撃ち抜いていった。


まずはここの防衛からだ。ここを破られては、艦橋も終わる。それは敗北と同義だ。


未だに、隔壁から3m以上の前進は許していない。防衛線は安定している。


だが、そんな時であった。


「あれは!」


床に転がる無数の薬莢の中に、一回り大きい何かが転がってきた。牟田口大尉は、確かにそれを見た。


「総員!伏せろ!手榴弾だ!」


静かに転がってきたそれは、手榴弾である。ころころとこちらに転がってきた。


前線の兵士らも、射撃を中断し即座に伏せる。しかし、僅かに遅かった。


バン。バン。バン。


音は大きくはなかった。しかし、爆煙が辺りを多い尽くした。そして、鉄の破片、()()()()()()が飛んできた。


「くそ、お前ら、無事か!?」


牟田口大尉は、煙の先に話しかけた。だが、返事はない。そして、すぐに煙が晴れる。


「おいおいおい!畜生が!」


その先には、バラバラになった機関銃と吹き飛んだ人が散らばっていた。一瞬にして、機関銃陣地が壊滅したのだ。濁った血溜まりが、床を覆っていた。転がってきた数個の手榴弾は、見事に爆発し、回りの人と物を吹き飛ばしたのだ。


「大尉殿!撤退です!ここはもちません!」


屍人どもは、情け容赦なく歩いてくる。迫る屍人に対し、まともな反撃すら出来ない。ここは棄てるしかない。


「上だ!艦橋の目の前に防衛線を張るぞ!総員撤退!」


ここから上には、暫くは階段しかない。その上には艦橋がある。この時代、艦の制御の半分が艦橋に集中している。その為、艦橋に至るまでは、特に何もないのである。一応はレーダーの保守点検の為の設備くらいはあるが、本当にそれくらいしかない。


唯一の開けた場所は、艦橋へと入るドアの手前だ。追い詰められた果ての水際防衛だが、最早、仕方あるまい。


時間稼ぎに隔壁を閉じつつ、牟田口大尉は階段を登っていった。





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