ある男の記憶Ⅵ
サブストーリーです。
まさかの終わってなかった。
舞台は、飛行戦艦大和である。
男は、流石にもう艦長ではない。200年も同じ人間が艦長をやっていたら、怪しまれるどころの騒ぎではない。男は、上手く身分を隠しつつ、何とか大和で働いていた。
ある日。男は、一人廊下を歩いていた。誰もいない廊下だ。
「誰もいないな」
男は、周囲に誰もいないことを入念に調べた。大和の警備システムは既に止めてある。後の問題は、人間がいるか否かだ。そして、男はそれを確信した。
「やるか」
男は、何もない壁を押す。壁に這う蜥蜴のような姿で、2ヶ所を押した。普通に触れれば何もないと思われる壁だが、このように上下2ヶ所を押すと、それは反応するようにできている。万が一にでも部外者に押されない為の工夫だ。
男が壁を押すと、壁がへこんだ。そこは、隠し部屋への入り口なのだ。男は、そこに入ると、素早く扉を閉めた。
照明が付き、部屋は無機質な明かりで照らされた。
部屋の真ん中には、ひとつの寝台があった。また、壁は何かしらの機械で埋め尽くされていた。さながら、コンピュータの中に入ったような部屋だ。
そして、寝台には、一人の女性が横たわっていた。緋色の軍服を着ている。だが、息はしていない。しかし、腐ってもいない。
「久しぶりだな」
男は静かに呟いた。そして、男は、手元の機械や壁の機械を弄り出した。その様子は、とても手慣れているようであった。
「まず意識系で………駆動系はテストモードで……いややっぱり全力で……」
男は、目の前に横たわる体を弄り出す。全身にコードを繋ぎ、それを機械に接続し、それを操作する。
そして、それは終わった。
「Smi.AHR2173-7b.sr-2173Jpn.aa0001、リブート」
男は、ただ、そう言った。そして、その体は動き出した。いや、動いた訳ではないが、確実に起動したと窺わせる音がした。
「聞こえるか?」
「はい」
それは動いた。しかし、口は動いていない。別段、言葉を発するのに口を動かす必要はないのだ。
「どうだ、気分は?」
男は問い掛けた。
「そうですね、外の世界の様子が気になります」
「そうなのか。まず、何年寝てたかわかるか?」
「57153日と13時間21分11秒です」
「そうだ。で、説明しようと思ったんだが、よく考えれば、お前、記憶をインストールすればいいんじゃないか?」
「あ。そうでした」
それは、間の抜けた声で言った。この機械は、そこまで人間らしく作られているのだ。暫く機械は黙った。
「それと、そろそろ動けるか?」
「試してみます」
そう言うと、この機械は動き出した。目は開き、口は開き、寝台からのっそりと起き上がった。その様子は、人間と区別はつかない。
「おお。200年振りくらいか」
「はい」
「立てるか?」
「恐らくは」
機械は、難なく立ち上がった。そして、色々と体を動かし、動作を確かめる。その動作は、至って優美だ。
「問題なさそうです」
「いけるか?」
「はい」
「じゃあ行こうか。これを使え」
男は、綺麗な軍刀を差し出した。機械は、それを手に取った。




