東京攻防戦Ⅲ
「第7、11、13区画に、敵が侵入を試みています」
大和は、簡潔に状況を伝える。当然ながら、大和の各所には、甲板に出る為のドアが設置されている。あまり使うことはないが、取り外す訳にもいかなかった。だが、今やそれは、敵にみすみすと侵入を許す原因となってしまった。
敵の侵入箇所は、右舷に2つ、左舷に1つである。
「早急に、態勢の整った部隊を向かわせよ!」
「了解!」
大和には、地上部隊およそ300が配属されている。ドアを挟む隔壁で敵を防ぐ間にも、その準備は進んでいる。小銃を構え、機動装甲服を着こんだ兵士達は、続々と敵のもとへ向かっていった。
「来るぞ。構えろ」
牟田口大尉の部隊もまた、第7区画の隔壁の前に構えている。周囲に遮蔽物もない為、廊下の影から狙い撃つ格好となる。もっとも、それは敵も同じだ。
そして、隔壁にヒビが入る。
ホロリと、鋼鉄の欠片が落ちた。
「撃てっ!!」
その瞬間、隔壁は崩れ落ちた。爆煙で、敵は見えない。しかし、彼らは撃つ。兎も角、前を撃つ。この狭い廊下だ。撃てば当たるだろう。
一方、敵も当然ながら撃ってきている。銃弾は、次々と兵士の耳元を掠めている。しかし、牟田口大尉は怯まない。
また、どうも敵は機動装甲服を着ているようだ。弾が弾かれる金属音の聞こえてくる。しかし、それをも撃つ。
「代われ!」「おう!」
弾が切れれば、射撃の役を横にいる兵士と代わる。そして、後ろで弾を込め、次に備えるのだ。このシステムで、牟田口大尉の隊は、一切間断なく、敵に銃弾を浴びせているのだ。
だが、なんだか様子がおかしい。
「何処を撃ってるんだ?あいつら」
天井や、床など、あらぬ場所に次々と弾が当たっている。それは、銃の使い方を知らない者が銃に翻弄されているようだ。そして、こちらには殆ど弾が飛んでこない。
だが、敵は敵だ。容赦はしない。なおも銃撃は続く。
やがて、煙が晴れてきた。敵の姿が徐々に浮かんでくる。
それは、同じく機動装甲服に身を包んだ敵、ではない。
「お、おい。あれ、は」
「ああ。屍人、なのか?」
そこには、緑と茶色の皮膚を覗かせる化け物、屍人が立っていた。しかし、それは、ただの化け物ではない。
まず、全身に鉄板が打ち付けられている。もともと痛みを感じない屍人の特徴と相まって、それは強固な装甲となっている。そして、銃は、手に打ち付けられていた。寧ろ、手が銃になっているようだ。そして、屍人が手を動かす度に、銃弾が乱雑にばらまかれた。
「大尉、どうします?」
「頭は、まだ見えるな」
「はい」
頭は装甲に覆われていたが、幾つか穴が空いている。屍人を殺すには、無数の弾をぶち込んで失血死に至らしめるか、頭、若しくは心臓を撃ち抜くしかない。胸には装甲が着いていたが、頭は貫ける。
「少し後退し、敵を確実に殺していくぞ」
「了解です」
幸いにも、屍人はゆっくりと近づいてきている。やはり、愚鈍な化け物だ。牟田口大尉は、前線を後退させた後、距離を取りながら屍人を正確に殺すよう指示する。
屍人と比べれば、こちらの足は遥かに速い。ひとつ後ろの曲がり角まで進むと、一行は銃を構えた。そして、躊躇いなく弾丸を放つ。今度は、フルオートの連射ではなく、確実に当てていく単発だ。迫り来るゾンビを撃ち抜いていくとは、古くさいシューティングのようである。だが、それだけ余裕もあるのだ。
「余裕ですね」
「いや。油断するな。これでは敵が弱すぎる」
これでは、何故にこんな小細工をしてきたのかわからない。何の効果もないではないか。牟田口大尉のそんな予感は、そして、的中した。
「走り出した!?」
「くそっ、やはりか!総員下がれ!次の隔壁まで撤退だ!」
その時、突如として屍人が走り出した。それも、一斉にだ。とても、正確に頭を貫いている場合ではない。
兵士達は、一斉に走り出す。
「足を狙え!動きを鈍くしろ!」
牟田口大尉は叫ぶ。まずは、適当に足を貫き、屍人を走れなくしてやるべきだ。兵士らは、即座に従う。
走りながらも、銃弾をばらまいた。最前の屍人には、弾が次々当たっていく。屍人は、幾分か鈍くなったと見える。しかし、その後ろからも、どんどん屍人が湧いてくる。
「グレネード!」
最後に、グレネードで屍人を吹き飛ばした。廊下は血に染まる。吹き飛んだ屍人の体が、床に散らばった。また、後続の屍人も怯んだようである。そして、その隙に、一行は隔壁を閉じた。
「ふう。生きてるな」
何とか危機は乗り切った。しかし、まだまだ戦いは終わらない。
ここら辺から大和攻防戦なんじゃないかと思わなくもない。




