東京攻防戦Ⅰ
東京攻防戦はくっそ長くなるんで、覚悟しといて下さい。
崩壊暦214年11月19日10:23
帝都東京の南では、およそ150隻からなる大艦隊が空を埋め尽くしている。戦艦25隻、空母11隻を中心とし、多数の輸送艦、強襲上陸艦をも含む、決戦艦隊である。
その艦隊の中央には、大和と東郷大将。その左右には、遥か先まで、鉄の芸術が並ぶ。
東京までは、残り僅か。その時は、近づいている。
「敵を捉えました」
「結構。敵の布陣は?」
レーダーには敵の姿が移る。しかし、敵は些か、こちらとは不釣り合いだ。
「たったの2個艦隊か。哀れとも言えるな」
東京を守るのは、たったの2個艦隊だけであった。2個の近衛艦隊である。その数は、こちらの半分にすら満たない。どんな奇跡が起ころうと、敵に勝ち目はない。だが、それも、日ノ本の男の姿なのだろう。
絶望的な戦いの中でも、上の者に対する忠義を忘れない姿は、天晴れである。指導者がどんな悪逆な者であっても、それに忠を尽くすものは、等しく武士の魂の権化である。忠を尽くした兵士に、罪はない。
「潔く、死なせてやろう」
「はい。彼らも、それが望みです。こちらも、全力でかかりましょう」
例え、絶対に勝てる戦でも、それで手を抜くのは、武士として失格だ。常に戦う相手への敬意を忘れず、全力をもって相手を玉砕させてやらねばならない。
もっとも、そんなことが出来る程の高尚な精神を持つ者は、東郷大将やチャールズ元帥くらいしかいないだろう。
「全艦、これより、『決号作戦』を開始する。躊躇うことなく敵を沈めよ!」
「決号作戦」。それが、この東京制圧作戦の名である。これで全てを決するのだ。
最後の戦いは始まった。
「敵、対艦ミサイル斉射」
「うむ。こちらも反撃せよ。容赦はするな」
まずは、両者共に、対艦ミサイルの撃ち合いだ。共にミサイルを撃ち出すが、こちらのミサイルは倍である。ここから既に、戦いは優勢に進むと思われた。だが、結果は以外なものである。
「こちらに被害はなし」「閣下、敵もです。命中は10のみ!」
「何?意外と堅いな」
敵の方が、対空防御は圧倒的に脆い筈だ。だが、敵は、このミサイルの殆どを撃墜して見せたのだ。命中したミサイルは、両者共にほぼ同じであった。
「最後まで戦うか。よし。全艦、更に対艦ミサイル斉射!全力でかかれ!」
その後も、対艦ミサイルの応酬は続く。しかし、遂に沈んだ艦はなかった。第七次攻撃にもなると、流石の東郷大将も、諦めがついてきた。
「閣下、このままでは、らちが明きません。砲戦に移りましょう」
東條中佐は言う。
「そうだな。艦隊を前進させよう」
艦隊は、主砲の射程にまで前進していく。ここまで耐えるとなると、砲撃で勝負を決するしかないだろう。
「敵、下がり始めました」
対して、敵は距離を取り始めた。
「何がしたいんだ?このままでは、帝都が巻き込まれるぞ」
このまま後退すれば、いずれは帝都の上空にまで行ってしまう。そうなれば、無数の砲弾が帝都に降り注いでしまう。どの道勝ち目も無い以上、それに意味は無い筈だ。増援が来る訳でもない。
「仕方あるまい。追え」
ひとまずは、追うしかない。
ミサイルが両艦隊の間を飛び交う中、両艦隊は帝都へと向かっていく。膠着状態だ。
「しかし、ここまで汚い策を、帝国軍はとるのでしょうか?」
「わからん。やもすれば、何かしらの策があるのかもしれんからな」
確かに、普通に考えれば、帝都の人々を盾にしようとしていると思える。最後の悪足掻きと言われても無理がない行動だ。
だが、帝国軍にはそういう癖はない筈だ。ましてや、近衛艦隊がそのような策をとるとは思えない。天皇その人の身が危うくやるからである。
不穏な空気が漂ってきた。
そして、それは具現した。
「帝都より多数の、航空機?が、飛びました」
「航空機?」
航空機、即ち、翼の揚力を利用して飛ぶ、20世紀から存在する飛行装置である。現在でも、その圧倒的な速度を買われ、現役である。しかし、それが今出てくるとは、意味がわからない。
しかも、戦闘攻撃機ではなく、普通の全長150m程の航空機である。簡単に撃墜出来るばかりか、何の役にも立たないだろう。
しかし、その様子がおかしい。
「なおも増加。50、60、もっといます!」
止めどなく、航空機が飛び立っていく。そして、それらは、帝都の上空を旋回し始めた。
「集まっているのか?」
航空機は、徐々に集まってきているように見える。それこそ、艦隊を編成するように。
そして、それは、来た。
「一斉にこちらに来ます!」「数は78!」
「くっ。撃ち落とせ!」
それらは、集まったと思えば、突如としてその牙をこちらに向けた。全ての航空機が、狂ったようにこちらに突進してきているのだ。快勝、という訳にはいかなさそうだ。




