サンフランシスコ上空にて
崩壊暦213年12月11日04:35
「避難勧告だと?」
「はい、閣下。そして、避けられる犠牲を避けることは軍人として必然のこと。西部の一般人には即時避難を手配するのが良いでしょう」
「そうだな」
現在、チャールズ元帥、ハーバー中将は、日本軍から発せられた避難勧告への対応に追われている。
戦時国際法、ベルリン空戦条約としては、避難勧告の後にその場所で民間人を殺されても、文句は言えない。
市民を守ることを至上とするチャールズ元帥としては、市民の避難が最優先だ。
そして、幸運にも、サンフランシスコの市民の多くが既に避難しているため、避難は問題なく完了した。
「敵、戦闘攻撃機の発艦を確認。敵の航路は、我が艦隊への経路より東に20度ほどずれています。」
「空爆するというのは本気らしいな。これで、航空艦隊が殆どもっていかれるか。」
チャールズ元帥の性格から、空爆される都市を見捨てるなどできなかった。
「元帥閣下、せっかくの航空優勢を放棄してでも都市を守るのですか?」
「ああ、そうだ。」
「しかし、市民は避難しているのですよ。人的被害は発生しないと思われますが。」
「それでも、戦いが終わった後に苦労するのはここの市民だ。それは、避けたい。」
チャールズ元帥は、戦後の市民の暮らしについてを最も憂いた。
「わかりました。元帥の命令とあらば、慎んで従いましょう。」
「サンフランシスコ空港の部隊と、リンカーン、ケネディには、敵戦闘攻撃機の迎撃を命じる。」
チャールズ元帥の命令で、およそ200の戦闘攻撃機が敵に向かっていく。手元に残ったのはおよそ40機である。
「敵艦隊、接近。」
敵は砲撃戦に持ち込もうとしているようだ。
「こちらも砲撃戦の準備を。」
「了解。」
艦隊決戦は始まろうとしている。
その頃、サンフランシスコ上空では、日本軍の迎撃が始まっていた。だが、それは迎撃と言えるものにはならない。
「な、逃げるだと。各機散開。奴らを逃がすな!」
飛行隊長は指示を飛ばす。
日本軍は航空戦が始まろうという距離で、突如バラバラになり、四方八方に散っていった。しかも、爆撃すら忘れたように全速力で逃げていく。
サンフランシスコ上空のあらゆる場所が、この鬼ごっこの舞台となった。
米軍としては、日本軍を放置するわけにいかず、ただただ、時間だけがとられていく。しかも、両軍が入り交じり、艦隊からの対空攻撃もできない。
「奴ら、爆撃というのは嘘か?」
飛行隊長は日本軍の策略に薄々気付いていたが、迎撃する他に道はなかった。
そして、その少し上空では、ついに砲撃戦が始まる。
「全艦、撃て!」
その号令で米艦隊は砲撃を開始する。
戦力では不利は否めない。だが、これ以上退く場所もないのだ。
「対艦ミサイル、来ます。」
敵は嫌がらせか、対艦ミサイルを撃ってくる。平常時ならその程度簡単に迎撃できるが、傷をおった艦隊は、一部を通してしまう。
数発のミサイルは命中し、戦艦、巡洋艦に傷を負わせる。
「右舷ミサイルランチャー、被弾しました。」
ついにアイオワそのものにも敵の砲火が届き始めた。防衛艦隊旗艦から火が上がる。米艦隊の不利は明白だった。
このままでは火力で押し負ける。すぐにそう察したチャールズ元帥は、ある作戦を指示する。
「ニミッツ、アイゼンハワーに出撃を命じろ。戦闘機には、おとりをしてもらう。その後、突撃、ミサイル斉射だ。」
チャールズ元帥窮余の策、それは、敵の、命中率が異常に高い炸裂弾の狙いを分散させるため、敵艦隊の周囲を戦闘機で囲むというもの。
主砲の数は100にも満たない。それを周囲360度に向ければ、威力は激減するだろう。
敵も決して万全の態勢ではない。稼働率は低下している。
そこに対艦ミサイルを撃ち込めば、ある程度は命中を期待できるかもしれない。
但し、戦闘攻撃機には危険を冒してもらわなければならない。それに、敵に近づかないと効果が薄い。当然、艦隊も危険だ。
だが、これで敵の旗艦を沈めれば、勝機はあるかもしれない。
これは、チャールズ元帥最後の策であった。
「これしか、ないんだ。全艦、行動を開始せよ。」
チャールズ元帥は、悲愴に満ちた声で命令を下した。