ホワイトハウスにてⅨ
サブストーリーです。
ホワイトハウスは、今や権威の象徴ではなくなった。
チャールズ元帥の反乱軍は、その規模を拡大させ、政府につく艦隊はどんどん減っていった。
そして、政権を掛けた最終決戦も、政府が敗北しつつある。素人が見ても、参謀総長が見ても、勝ち目がないのは明らかだった。
そんな中、恐慌に襲われるホワイトハウスでは、恐らく最後になるであろう閣議が開かれていた。
「さて、参謀総長君、勝ち目はあるかね?」
ルーズベルト大統領は、狂っている程に陽気に問い掛けた。
「そ、それは……」
対して、まともな参謀総長は、答えあぐねていた。軍人として、負けますとも言えず、かといって勝ち目なども見えない。だが、ルーズベルト大統領は、狂った笑顔で問い掛けた。
「Yesかね?Noかね?」
よく見れば、その目は全く笑っていなかった。
「No、です、大統領閣下」
堪えきれず、参謀総長は応えた。だが、驚くこともない。誰しもが、負けることなど知っているのだ。恐らく、ルーズベルト大統領も知っていただろう。
「そうかそうか。諸君、そろそろホワイトハウスも落ちるそうなのだが、どうするかね?」
ルーズベルト大統領は、辺りの官僚達を見渡した。だが、ルーズベルト大統領に見つめられながらも、誰も答えられなかった。
その時、ある大臣が、勇気を振り絞り、弱々しい声で応えた。
「降伏、ですか?」
「ほう、降伏か。そうだな。降伏しようか?」
「そ、そうですね。それが良いのでは」
ルーズベルト大統領は、突然、素直になりだした。何事かと、大臣らは彼を凝視した。
「ただし、諸君だけだがな」
「は?では、閣下はどうするのですか?」
「私は逃げるさ。アメリカなど、どうでもいいからな。諸君は、暫く時間稼ぎでも、しといてくれたまえ」
「我々も逃げますよ。閣下だけではなく」
当然ながら、大臣らも逃げたいのだ。だが、ルーズベルト大統領は、それを許さなかった。
「ダメだ。諸君らはここにいたまえ」
「何故ですか?我々も逃げれば……」
「黙ってろ」
ルーズベルト大統領は、張り付けていた笑顔を殴り捨て、凍てついた声で大臣を止めた。大臣は、何も喋れなくなった。
「そう、それと……」
そう言うと、ルーズベルト大統領は指を鳴らした。数秒の間をおいて、数十の兵士が乱入してきた。そして、大臣らに銃を突きつけたのだ。
「閣下!これは、どういうことですか!?」
「もし、喋れば、彼らが諸君を殺すということだよ。わかったかね?」
大臣らは、無言で頷いた。
「では、さらばだ、諸君」
ルーズベルト大統領は、清々しい挨拶をすると、ホワイトハウスを出ていった。




