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終末後記  作者: Takahiro
1-6_内乱
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対ソ交渉

「まず、我がソビエト共和国は、これより、最も好ましい時分に、大日本帝国へと宣戦布告を致します」


まず来た宣言は、早速、とてつもなく重大なものである。ソビエト共和国が参戦すると、向こうから言ってきたのである。


艦内を、歓喜とも驚きともとれるざわめきが満たした。それ程の吉報なのである。


「おお。ありがたい」


東郷大将は言う。


「ですが、これで話は終われません」


ジューコフ中将の目が、つとに鋭くなる。何やら、雲行きが怪しくなってきた。


「まず、戦後の話です。いくらジュガシヴィリ書記長でも、無条件に参戦するなど、受け入れません」


それは、戦後に残される大日本帝国の遺産を巡る話である。つまり、大日本帝国の領土、解体されるであろう大東亜連合などである。きな臭い話だが、これが確定していないと、ソビエト共和国と戦争する羽目になりかねない。


「まず、そちらは何を望むのかな?」


「我々は、大東亜連合構成諸国に対し、大日本帝国と同等の権利を得ることを要求します。即ち、大日本帝国に代わり、我々が、東亜の盟主となります」


ソビエト共和国の要求は、大日本帝国が現在行使している、東亜諸国に対する内政干渉権(本来は権利ではない)や外交監督権などである。


「それで、帝国本土はどうするのかね?」


「大日本帝国本土に関しては、全て、東郷大将にお任せします。閣下が率いるのは、日本国ですから」


日本国が日本列島を保持しないとは、本末転倒も良いところである。まあ、神聖ローマ帝国やらの先例は、歴史に見えるが。ともかく、東郷大将も、大日本帝国本土を領有することは、絶対に譲り得ない条件であったから、両者の利害はおおよそ一致することとなった。


「良くわかっているじゃないか。東亜諸国への宗主権は、認めよう。日本国は、不要なまでに勢力を拡大することには、反対だからな」


と、言いつつ、実際のところは、アメリカに植民地を確保し、チャールズ元帥のアメリカ連邦との同盟も約束したからである。東郷大将の寛容さの裏には、そんな強かな計算があった。


「ありがとうございます」


こんな即決でことが決まったことも、事前の交渉の成果である。これは、ある種のショーなのだ。


「それで、連合艦隊が動けるのは、いつになりますか?」


ジューコフ中将は尋ねる。


「おおよそ、10日後だ」


「なるほど。それに合わせ、大日本帝国に宣戦を布告しましょう」


補給が整うまでは、もう暫くかかる。その間は、待つしかない。もっとも、ソビエト共和国単体の戦力であっても、今の大日本帝国には勝てると思われるが。


「どれくらいの戦力を集めたのかね?」


それは、なかなにセンシティブな質問である。戦後秩序にも関わる問題だ。しかし、ジューコフ中将は快く答えた。


「5個艦隊です。我が軍の半分以上を、極東に集めましたよ」


「それはそれは。心強い」


既に、その戦力だけでも、大日本帝国の全軍より多い。そして、ちょうど連合艦隊と同じ数でもある。


「しかし、貴国の西方や南方の防御は、大丈夫か?欧州合衆国やアラブ連合に対し、あまりにも戦力が希薄ではないのかね?」


ソビエト共和国陸軍には、およそ9個の艦隊があるとされる。それを信じれば、極東以外の国境線には、合計しても4個の艦隊しかない、ということになる。それは、あまりにも危険な配置である。


「安心して下さい。まず、欧州合衆国とアラブ連合は、アフリカ情勢に手一杯で、こちらに戦争など仕掛けては来ないでしょう。それに、万が一の事態となっても、大日本帝国を滅ぼした後、すぐに戦力を西に向ければ良いのです」


こちらも、強かにもアフリカの混乱を利用しているようだ。アラブ連合と欧州合衆国は、アフリカ内戦の後の主導権を巡り、水面下での抗争を続けている。確かに、そんな状況下で、列国と戦争など起こさないだろう。


また、大日本帝国など、簡単に潰れるだろう。何せ、両国10艦隊に対し、4個艦隊の戦力しかないのだ。しかし、戦後を見据えて会談を行うとは、何処かで聞いたことのある話だ。


「確かに、そうだ。では、大日本帝国を挟撃し、これを滅ぼそう」


「ええ。もちろんです。よろしくお願いしますよ」


ジューコフ中将は、清々しい笑顔で応える。


「武運を祈る」


「そちらも、ご武運を」


通信は終わった。


「閣下、大東亜連合を、くれてやるのですか?」


東條中佐は尋ねる。いくらなんでも、ソビエト共和国に譲歩し過ぎではないのかという疑問だ。帝国本土は手に入るとしても、東亜を喪うのは、痛い。


「構わんさ。ジュガシヴィリという男は、同義に厚い男だ。彼ならば、公正な統治をしてくれるだろう」


「いえ、閣下。その、日本国の国益からして、それは妥当ではないのではと思いまして」


どうも、東郷大将は、東條中佐が東亜の国民を心配していると誤解したようだ。東條中佐が尋ねたいのは、大東亜連合を喪った時の、経済的な損失についてである。


「それならば、もう十分なのだよ。かつて西洋人は、ただただ富を求め、全世界を侵略した。私は、そういうのが大嫌いなのだよ。だから、私は、必要最小限以上は求めない。そういう訳だ、中佐」


東郷大将は、東洋人として、侵略の歴史を反復したくないのである。


「はい。理解しました。閣下は、お優しい方なのですね」


「ははは。そんなに買いかぶらないでくれ」


兎にも角にも、ソビエト共和国は、日本国の味方となったのである。




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