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終末後記  作者: Takahiro
1-6_内乱
202/720

今後の計画

さて、ハワイ基地を壊滅させた(元)連合艦隊は、ハワイ基地で休息を取っている。もっとも、それは、取らざるを得ないという事情によるものであるが。


「牟田口大尉より、東條中佐へ。

全く、何の物資も確認出来ません。ハワイには何にもありませんよ」


大和艦橋にかかってきたのは、地上を捜索していた牟田口大尉からの報告である。ハワイ島は、一般に、非常に小さいと思われるがちであるが、実際のところ、直径100kmを超える島なのである。


捜索には、数時間を要した。そして、この報告が最後の報告である。


だが、結果は、牟田口大尉のやけくそな様子から察する通りである。


「本当にないのか」


「ええ。隅から隅まで探しましたが、石油の一滴もありませんでした」


ハワイ島からは、一切の物資が持ち去られていた。燃料弾薬や、食糧など、兎に角あらゆるものがなかった。


「わかった。では、帰投してくれ」


「了解致しました」


通信を切ると、今後への不安ばかりが浮かんできた。東條中佐は、東郷大将にことの顛末を報告した。


「なるほど。では、しばらく、東京侵攻は無理だな」


「ええ。日本国本土から、物資を運ばなければ」


一般の飛行艦に積める燃料は、長くて7000km飛べる分しかない。サンフランシスコ攻防戦は、実は、かなりギリギリの戦いだったのである。


そして、既に燃料が残り少ない連合艦隊では、東京に辿り着くことすら出来ないのである。


「使える水上船は?」


「中型が30隻程です」


「足りないな」


それでは、連合艦隊に必要な物資を全て運べはしない。食糧は問題ないとしても、弾薬や燃料は、量がかさむのである。


「まずは食糧を輸送させ、漸次、燃料弾薬を輸送させよ」


「了解です」


腹が減っては戦はできぬと言う。まずは軽い食糧から運ばせ、更に往復で、燃料弾薬を運ばせる。ひとまず、輸送計画はこのようなものだ。それまでは、待つしかない。


東郷大将は、全体に指示を下せば、暫くはやることも大してなくなる、筈であった。しかし、数時間後、突然の報告が艦橋を騒がせた。


「ウラジオストクより、通信が入っています!」


「なに?誰名義だ?」


突然、ウラジオストクからの衛星通信が入ってきたのである。あまりにも脈絡の無い通信に、東郷大将も、困惑を隠せない。


「ジューコフ中将、と名乗っています」


「ああ、ジューコフさんですか」


一番最初に反応したのは、近衛大佐である。そして、東郷大将もまた、合点が入ったようだ。


「ど、どなたなのですか?」


だが、東條中佐には、その名に覚えがない。


「ジューコフというのは、大日本帝国とソビエトの交渉窓口だ。そして、大日本帝国への攻撃を約束してくれた男だ」


「ああ、なるほど。ん?では何故、近衛大佐がご存知なのですか?」


近衛大佐は、名目上でも、大和の機関長である。東郷大将の副官たる東條中佐も知らなかったことを、何故、彼が知っているのか。


「ああ。私が交渉をしていたのだよ」


近衛大佐は、素っ気なく告げる。


「え、そうなのですか?まあ確かに、これまでも、たまに居なくなってましたが……」


「そう。その時私は、ソビエトに飛んでいたんだよ」


「はあ、黙って他国に行く大佐がいますかね?」


東條中佐は、そのことを一切聞かされていなかった。まさか、気づかぬ間に、近衛大佐がソビエトに行っていたとは。全く、意味がわからない。あまりに衝撃的過ぎて、寧ろ、驚きはなかったものだ。


「ここにいる」


「そうですね、はい」


東條中佐は、呆れぎみに言う。東條中佐は、未だに、全てを理解しきれてはいなかった。


だが、近衛大佐は、本来の議題に話を切り替えた。


「とにかく、通信に出てあげたらどうでしょうね?」


近衛大佐は言う。そう言えば、ずっと通信を無視していた訳であった。流石に、相手に失礼であろう。


東郷大将は、通信をメインスクリーンに映す。


「どうも、皆さんこんにちは。ソビエト共和国国家人民陸軍中将の、ジューコフと申します」


さて、出てきたのは、壮年で清々しい、人に好印象を与えるような将軍であった。


「お久し振りですね、ジューコフ、そうだ、中将になられたのですか?」


近衛大佐は尋ねる。前に会った時は、ジューコフ「少将」であった筈だ。


「ええ。この度、晴れて、中将に昇進しました」


「おお。これはめでたい。おめでとうございます、ジューコフ中将閣下」


「いえいえ。この程度のこと、祝うまでもありませんよ」


ジューコフ中将は、軽く手を振って、それをいなした。そんな様子も、極自然である。やはり、社交が得意な男だ。


「それで、今回は、何を求めてこのような通信を?」


東郷大将は、品定めをするような目で問いかける。


「そうですね、用件はいくつかあります。順を追っていきましょう」


ジューコフ中将は、この戦争の趨勢を決する情報を持ってきているのであった。




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