ハワイ攻撃前夜
この世界では、ハワイは日本領です。
崩壊暦214年11月8日09:12
太平洋上には、およそ150隻の艦隊が、西を目指して飛んでいる。目指すはハワイ、そして、大日本帝国ハワイ基地である。
「まさか、ここに攻め込むことになるとは、思いませんでした」
東條中佐は、懐かしい思い出を振り返るように言う。
そう、大日本帝国ハワイ基地は、甲号作戦において、連合艦隊が出撃した基地であった。そして今、彼らは、そんな基地を奪おうとしているのだ。
昔から、ハワイ基地はアメリカに対する前線基地であったが、今回の「アメリカ」は日本国である。
「ああ、そうだな。我々も、来るところまで来たのだな」
東郷大将は応える。これからは、大日本帝国の領域への侵攻である。これまでのアメリカ制圧とは、訳が違う。
「しかし、帝国は、我々に勝てると思っているのでしょうか?」
「確かに、勝てるとは思えんな。だが、かと言って、妥協する理由にはならない。全力をもって臨むように」
「はっ。もちろんであります」
「結構」
大日本帝国に、勝ち目などないはずなのだ。近衛艦隊という切り札を切っても、2個艦隊の追加に過ぎない。近衛艦隊が加わっても、こちらの戦力はなおも1.5倍はするものだ。
更に、それすらも苦しめる策がある。
「ソビエト共和国が参戦すれば、更にこちらに優勢になりますね」
「ああ。既に、日ソ国境付近では、艦隊が動いていると聞く。ソビエト共和国の動きには、注意すべきだな」
ソビエト共和国は、秘密ルートで、対日参戦を伝えてきた。これを信じるならば、ソビエト共和国は満州から日本になだれ込み、大日本帝国には、降伏以外の道がなくなる筈だ。
「私の勘では、ソビエト共和国は味方してくれる気がしましたがね」
「近衛大佐の勘、ですか」
「なに、信じられないかな?」
東條中佐は、苦笑いで応える。
近衛大佐は、ソビエト共和国との交渉を担ってきた。因みに、それは、近衛大佐に仕事がないからである。航行に関する仕事は、大和が勝手にやってくれるのである。
「いやいや、中佐。近衛大佐の勘は、存外頼りになるぞ」
東郷大将は言う。
「そうなのですか?」
「ああ。近衛大佐は、普段は頼りないが、こういう時は、正確な答えを出してくれる」
東郷大将は、近衛大佐を高く評価しているようだ。
「『存外』とか『普段は』とか、どうしてそんな言葉が付くんですかね?」
「まあまあ。要するに、いざという時は頼りになると言うことだよ」
「ま、そういうことにしときますよ」
近衛大佐は、釈然としない思いであった。だが、あまり抗弁する気も起きないようで、この話はひとまず終わった。
「敵を捕捉しました」
「様子は?」
ついに、大日本帝国軍を捕捉出来るだけ距離まで来た。
「たったの2個艦隊か」
こちらは5個艦隊である。これならば、勝利は堅い。
「敵は、第何艦隊だ?」
「第七、第八艦隊です」
「ほう。近衛は出てきていないか」
第七、第八艦隊は、いずれも、西方の防衛を担当する艦隊だ。また、この2艦隊だけが、帝国政府についている。まあ、近衛艦隊までここに出せば、いよいよ西方の防衛は中華民国軍くらいになる訳で、ここにいないのも当然だろう。
「東條中佐、どう見る?」
「あくまで、抵抗する気と見えます。ハワイ基地は、かねてより対米戦の為に整備されてきましたから」
ハワイ基地は、艦隊がいるだけではない。様々な防衛装置がある。対空砲や対空ミサイルなどは、その典型である。
「奴らは、玉砕でもしようというのか」
「それは、考えにくいのでは?ここで玉砕しては、帝国本土はがら空きとなります」
「それもそうだが」
玉砕というのは、ある意味で最も合理的な時間稼ぎであるが、時間稼ぎというのは、後続のあてがある時にするものである。ここの2個艦隊がやられれば、本当に後はない。
最後の望みに賭けるとしても、ここで玉砕するのは非合理的だ。
「とりあえず、包囲殲滅で安全に叩くのはどうでしょうか」
「ああ。それしかないな。わざわざ撃たれる必要はない。ハワイ基地も、最悪の場合は焼け野原にしても構わん」
基地ならば、玉砕のような攻撃を仕掛けてくるかもしれない。基地は逃げられないからだ。故に、徹底的にハワイ基地を砲撃し、その抵抗を粉砕すべきだろう。
「では、これで決まりだな」
作戦は決定された。ハワイ基地まで、残り4時間程である。