東郷-チャールズ会談Ⅱ
本日は、2話一気に更新します。
調子乗りました。
だが、そんな緊張は、突然壊れる。
「元帥閣下、このような腹の探り合いは、要らないでしょう。私達は軍人であり、政治屋のようなことをする必要は、ありません」
東郷大将は、突然、呆れ果てたように言った。その様子は、常連客が店主に語るようである。やはり、老獪な将軍だ。ビクビクとしているようには全く見えない。
「そ、そうですね。そうだ、私達は味方であったはず」
「はい、閣下。私達の利害は、計画を守る限り、衝突しません。わざわざ、こんなところで時間を無駄にする必要はありません」
軍人は、このような無駄を嫌う。彼らは、体面しか気にしない政治屋とは違うのである。東郷大将は、より現実的で事務的な話を望む。
「では、お互い、隠し事はなしと」
「ええ。お願いします」
東郷大将が頼み込む、というポーズだが、会談のペースは、完全に東郷大将のものになった。一瞬にして、チャールズ元帥の気は乱されたのだ。
その後は、早かった。二人は互いに、現在の状況と今後の計画を打ち明けた。
「クーデターは、内戦をも伴いかねないということで、宜しいですかな?」
東郷大将は問う。
「はい。残念ながら、軍の全てが裏切った訳ではありませんでした。我々は、ワシントンに攻め込む必要があります」
チャールズ元帥は、有り体に言えば失敗している、クーデター計画の現状を説明した。
「ですから、閣下の独立国家をもって、時間稼ぎをして頂きたい」
「はい。最初から、そのつもりですよ」
東郷大将は、最初から、こうなることを読んでいた。それは、アメリカ連邦政府の統治の華麗さ故である。確かに悪逆非道な政府ではあるが、部下の扱いは上手い。特権階級である軍では、当然、政府につく者も多いだろう。
「ありがとうございます。そして、我々は、閣下が北部を留守にする間、北部の盾となりましょう」
「はい。お願いします」
一方、東郷大将も、全ての占領地を掌握してはいない。それを制圧し、この大陸における地保を固めるまで、チャールズ元帥の軍団が、空白となる北部を守るのだ。
まさに、相互互恵の関係である。
そして、更に議論は30分程続いた。その多くは、戦後秩序についてである。だが、基本的には現占領地を維持という方針は決まっている為、大した議論はなかった。
アメリカ連邦の生産基盤は、ほぼ東海岸に集中している。チャールズ元帥からすると、西部は手放しても良いものだった。寧ろ、東郷大将の統治下であれば、民衆も幸福だろう。
「では、これを決定とします」
「はい、元帥閣下」
議論は決着した。結ばれたのは、北アメリカ分割協定である。
「閣下、では、これを発表します。宜しいですか?」
「はい。これより、記者会見を開かせます」
実は、アイオワには、極秘で多くの記者を呼んである。特ダネをちらつかせれば、マスコミも秘密は守る。ある意味、御し易い者どもだ。
既に、会見の席は用意されている。チャールズ元帥と東郷大将は、その部屋へと歩き始めた。