大化作戦始動
スピーチするだけの回です。
ここは大和の艦橋である。
東郷大将ら、上級将校は、ここで飛鳥作戦を見守っているのだ。地上部隊は、無闇に通信をする訳にはいかない。よって、大和では、彼らの成功を祈るくらいしか出来ないのだ。
だが、そんな苦しみも終わりを迎えた。
「第一中隊、カルガリー主要施設の制圧に成功とのことです!」
「おお。これで、大和の取り分は完遂したな」
既に、イエローナイフの制圧は完了している。大和の担当する2つの都市は、制圧された。
更に10分もすると、武蔵、出雲の担当都市も、制圧が完了したと報告が入った。
これで、本土はここでの状況を把握できない。北部6都市は、今や裸城である。
「では、全軍に、この計画を伝えるのですね」
東條中佐は尋ねる。
「そうだ。所詮、制圧したのは主要施設だけだからな」
今はまだ、本土との通信を途絶しただけである。警察署を制圧しても、各所に警察官は散らばっており、また、内務省などの職員も、軍政庁に全てがいる訳ではない。
また、都市そのものを制圧しなければ、独立国家などできない。その為には、いよいよ、全軍を動かす必要がある。
「大化作戦を、全艦隊に通達せよ。また、全艦隊に通信を繋げ」
大化作戦とは、完全に北部の都市を制圧する為の、飛鳥作戦が付随する作戦だ。
まずは、各艦の艦長クラスの指揮官に、大化作戦を通達する。彼らは、それを下士官に伝え、それが兵卒にまで伝わる訳である。
「こんな命令が下されても、誰も信じない気がしますが」
「まあ、そうかもな。その為にこれから、スピーチをしてやろうと思ってな」
「そっ、そうなのですか?初耳です」
「ああ。そうだろうな。何せ、今、考えたからな」
「はあ……」
東條中佐の懸念は、突然、大化作戦を伝えられても、何かの間違いだと思われるだけになるかもしれない、というものだ。事実、東條中佐も最初は混乱していたから、あながち、的を外したものではない。
そんな懸念に、東郷大将は、演説でもって応えようと言うのである。
そして、1時間が経った。今頃は、一応、大化作戦が全軍に伝わっている頃だろう。平常ならば20分もすれば伝わるので、これは、かなりの余裕をもった時間だ。
東郷大将は、この間、演説の内容を考えていた。まあ、大した演説をする訳でもないのだが。目的はあくまで、大化作戦への士気を上げることである。
「全艦に繋いでるな?」
「はい。全艦のモニター、正常に作動しています」
「結構。始めよう」
東郷大将の前には、幾つかのカメラやマイクが設置された。演説の為の、臨時の設備である。
そして、東郷大将の姿が、全東方方面軍の艦艇に伝わる。
「これを見ている諸君。大日本帝国陸軍大将にして、東方方面軍総司令官の東郷五十六だ。
私は今、大和の艦橋から、この演説をしている。
さて、おおよそ、私が何故演説をしているのか、諸君ならばわかるだろう。
先程の命令、名を大化作戦と言うが、この作戦について、私が伝えたいことがある。その為に、今、演説をしているのだ。
諸君には、イエローナイフとカルガリーを制圧せよ、との命令が下っている。それは、紛れもなく正しい命令だ。私が下した命令である。
間違いなどではないから、安心したまえ。
大化作戦では、イエローナイフとカルガリーを制圧する。それは、政府のすべての機関を占領し、それぞれの都市を軍の支配下に置くということだ。
これで察したものも多いだろう。これはまさに、叛乱に他ならない。私は今、諸君らに、叛乱を強いている。
その目的は、この無意味な戦争を終わらせること。そして、政府を健全な姿へと戻すことだ。
先の核攻撃は、政府の無慈悲さを露呈した。先の核攻撃は、いわば、見せしめに過ぎなかった。
これに対し、私は、この国を変えねばと決意した。しかし、あくまで、私は、この国の政体までもを変えようとは思っていない。
この地で叛乱を起こし、政府に要求を突きつけることが、私の目的だ。それ以上のことは望まないし、させるつもりはない。
諸君らには、八紘一宇の精神に則り、世界平和を求め、人々が最も幸福となる為には、何が必要なのか、考えて欲しい。
八紘一宇の理想の為には、この叛乱は必要であると、私は考えている。
大化作戦の詳細は、既に送った通りである。
諸君には、最大の奮戦を期待する!
今の非道な政府ではなく、正しい帝国、皇国の姿を、世に知らしめるのだ!
帝国万歳!
諸君に武運があらんことを!
終わり」
これより、大化作戦が始まるのだ。