カルガリー制圧作戦Ⅱ
部隊は、まったく普通の格好を装い、ドアへと近づく。もちろん、その服の中には、いくつもの銃器が隠されているが。
「では、行くぞ」
「はい」
牟田口大尉は、ドアを開ける。受付の者や、その他の客、休憩中と思われる者など、ホールは閑散としている。彼らの視線が集まったが、すぐに伏せられた。
だが、それは間違いである。
「ドアを封鎖だ」
「了解」
兵士は、後方のドアに鍵を付け、内側からは開かないようにした。怪しい作業をする兵士に、にわかに視線が怪訝としたものに変わる。
そして、ついにその時が来た。牟田口大尉が、全員に目配せをする。
その瞬間、全員が一斉に銃を取り出した。そして、銃はホールに向けられる。
「我々は、帝国陸軍だ!諸君らには、ここで人質になってもらう!」
牟田口大尉は宣言した。そして、兵士らは、ホールに押し入っていく。
「なっ、なんだ!」「ひぃっ!」
「手を上げろ!」「逃げるな!」
兵士らは、10秒と経たないうちに、ホールを制圧した。兵士らは、人々を部屋の一角に集める。さしたる抵抗もなく、あっという間にホールは静まった。
「ここで動くなよ」
「では、行きましょう」
「ああ。お前らは、こいつらを見張っておけ。残りは目標を目指すぞ!」
「了解!」
3人程の見張りを残し、牟田口大尉は上へと向かう。こちらの目標は、通信室である。
牟田口大尉は、無言で階段を登っていく。他の者も同様だ。
「うわ!なんだ!」
だが、階段にも人はいる。銃を持った武装集団に、彼らは怯えているだろう。
「手を上げろ!」
「はっ、はい」
一人の兵士が、階段にいた職員に銃を向ける。その職員は、酷く怯えているようだ。だが、そんなものには構っていられない。
「お前が捕まえとけ!残りは上がるぞ!」
「了解!」
一人を見張りに残し、残りの兵士は、階段を登っていく。まだ2階にも辿り着いていない。まだまだだ。
だが、その後も人と遭遇する度に、一人ずつ部隊が減っていく。
「残りは12か?」
「はい。ですが、行けるでしょう」
「ふっ、そうだな」
4階に着いた頃には、13人も見張りに取られていた。だが、目標は非武装であり、こちらは訓練された軍人だ。制圧くらい容易だろう。
軽く一人を黙らせると、ついにその部屋に辿り着いた。ドアの前で、兵士らは銃を構える。
「ここだな」
「ええ」
「よし、3、2、1、突入!」
通信室のドアを、部隊は一気に蹴破る。そして、素早く部屋の中へと入っていく。
突然の来訪に、職員は、何も状況がわからないらしい。
「手を上げろ!通信を切れ!」
部屋の真ん中で銃を向けられた時、やっと彼らも気づいたようだ。
意味がわからないといった顔だが、職員らは手を上げた。
「おい、そこ!」
その時、一発の銃声が響いた。牟田口大尉は、一台のデバイスを撃った。その職員は、本土との通信を試みていたのだ。
「動くなよ」
職員は、渋々と、黙って従った。
「デバイスの電源を切れ。そうすれば、危害は加えない」
牟田口大尉は言った。職員らは、次々と通信デバイスの電源を切る。そして、通信室からは、機械の音が消えた。
「第二小隊の状況は?」
「はい。たった今、長官室を制圧したとのことです」
「よくやった!じゃあ、こいつらを下に運べ」
「了解です」
とりあえず手を上げさせていた職員らを、部隊はホールへと連れていく。こちらも、銃を突きつけられ、抵抗はなかった。
そして、他の部屋も順次制圧された。
ホールには、軍政庁の全職員が集められた。ホールはぎゅうぎゅうで、なんとも窮屈そうだ。だが、それも仕方あるまい。
そして、ひしめく人々も、兵士に銃を向けられては、一言も喋らない。
「警察署の方は?」
「制圧完了です」
「よし。成功だな」
軍政庁、警察署、どちらも制圧された。これで、本土との公式な通信手段はなくなった訳だ。残っているのは、その他の職員のデバイスくらいである。そんなものからでは、本土へ正確な情報は伝わらまい。
カルガリーは、本土から隔絶されたと言っていいだろう。これからは完全に制圧せねばならないが、それも容易である。
カルガリーは、落ちた。