カルガリー制圧作戦Ⅰ
小説全体に、「残酷な描写あり」を付けときました。今後そういう描写を予定しているので。
崩壊暦214年10月28日00:11
大和は何気なく空港に留まっている。その他の艦も同様だ。しかし、今、大和では、帝国始まって以来の大事件が起ころうとしているのだ。
「総員。準備はいいな。これより、第一小隊は軍政庁。第二小隊は警察庁の制圧に向かう。いいな?」
「了解であります!」
牟田口大尉は、大和のランプウェイで、最後の訓示を述べる。飛行戦艦は、地上に降り立てる為、艦の左右が大きく開き、車両などが自走して乗降出来る造りになっている。
そして、そこから4両の軍用車が降りていく。中途半端に欠けた月が照らす道を、軍用車は静かに駆ける。
その内2両は第一小隊のもので、他は第二小隊のものだ。牟田口大尉は第一小隊を率い、軍政庁の制圧へと向かう。
「見えてきた。最初の関門だな」
「はい。大尉も、変なことはしないで下さいね」
「おい、俺を何だと思っているんだ」
「はい。じゃあ、行きましょう」
「おい」
牟田口大尉は無視しつつ、軍用車は進む。
前にあるのは、政府が立てた検問所である。アメリカ人がここを通ることは、基本的に許されない。検問所の先には、目的の軍政庁があるのである。
また、彼らが乗る軍用車というのも、比較的大型の兵員輸送車であり、普通は通れない。闇夜の中、検問所は妙に目立っていた。
検問所の前に、軍用車は止まった。
すぐに、守衛が話しかけてくる。
「どうしましたか?兵隊さん」
出てきたのは、なんともやる気のない守衛であった。だが、それでも、バレたらおしまいである。牟田口大尉は、慎重に会話を進める。
「ああ、軍政庁の方から、人を寄越して欲しいと連絡があってな。面倒なんだが、行く羽目になったんだよ」
「ああ、そうですか。はい。どうぞ」
「へっ?お、おう。ありがとうよ」
「お気を付けて」
守衛は、あまりにもチョロかった。こんなもので騙せるとは。あまりにもチョロ過ぎる。
言い訳を重ねるつもりであった牟田口大尉は、まったく拍子抜けしてしまった。だが、上手く平静を装い、検問所を切り抜けられたのだ。
「いつから、帝国はこんなに雑になったんですかね?」
「さあ。まあ、組織なんてこんなものさ」
「そうかもですね」
だが、先程の検問所の様子は、帝国全体の弱体化というか、民度の低下を示すものに他ならない。作戦が上手く行くのは嬉しいが、そうとも言い切れない、複雑な気分だ。
「あいつも、これから我々が軍政庁を制圧するとは、思ってないだろうな」
「ええ。さぞかし、後悔するでしょうね。私達を通したことを」
「ははは。まったく、感謝してもしきれない」
これから、軍政庁は帝国軍の手に落ちるのだ。第一小隊およそ50名は、既に武器を構え、やる気に満ち溢れている。戦闘大好きな奴らだ。
さて、軍政庁には、大きく2つの入り口がある。第一小隊は2つに別れ、それぞれから軍政庁に侵入する。
また、軍政庁は、カルガリー市庁を流用したもので、四階建ての小さめの建物だ。50人もいれば、制圧は余裕である。
最も優先すべき目標は、本土との通信室と、軍政長官室である。軍政長官というのも、内務省から送られてきた可哀想な奴だが、仕方あるまい。
また、警察署の制圧と平行して行う。どちらかが生き残っている場合、正確な情報が本土にもたらされる可能性が高い。
「第二小隊の状況は?」
「現在、検問所を抜けたとのことです」
「ちょっと遅いな」
警察署の方が大和から近いはずなのだが、向こうの方が検問を抜けるのは遅かったらしい。向こうの守衛は、幾分生真面目な奴だったのだろう。
帝国が弱体化したというより、政府が弱体化したのかも知れないと、牟田口大尉は、薄々、東郷大将の気持ちを察していた。
「配置につきました」
数分後、向こうも準備が出来たようだ。牟田口大尉の命令で、すぐにでも作戦は開始される。そして、牟田口大尉は即決の男である。
「よーし。では、第一中隊総員、軍政庁及び警察署の制圧を開始せよ!」
『了解!』
男たちは、次々と車を降りていくのであった。それは、飛鳥作戦開始の時である。