時計塔にてⅢ
サブストーリーです。
荒野に佇む時計塔。ここは、幾度となく、各国の秘密交渉に使われている。地上であるが故に人などおらず、政府の主権も及んでいないこの地は、まさに絶好の地であったのだ。
時計塔には変わり者が住んでいて、塔の維持管理をしている。よく分からない者ではあるが、彼らがいないと、この塔も使えないのだ。
さて、この日、塔を訪れたのは、大日本帝国からの来訪者であった。
原首相率いる代表団は、再び、彼の黒衣の集団との交渉に訪れた。1人の首相が2回彼らと会うというのは、崩壊歴始まって以来のことである。これまでは、おおよそ5年に1回のペースだった訳だが、日米戦争の影響で、こうしてまた交渉となった訳だ。
原首相と向かい合ったのは、白い髪の少女であった。
「東郷大将に不穏な動きあり、との報を受けました。ご存知で?」
少女は問い掛けた。
「なんですと?全くの初耳です。詳細をお聞かせ願えますか?」
黒衣の集団は、全世界にスパイを放っている。その情報収集力は、世界一とも言われる。そんな組織からもたらされた報。それは、東郷大将が叛乱の用意をしているというものだった。
「私達は、一言で言うと、困ります。東郷大将は、私達の障害なのです。ついては、然るべき時に、彼を排除してくれませんか?」
それは、少女が言うには物騒すぎるお願いだ。東郷大将を排除。実質は、この世から消してくれということだろう。
「そちらから頼み事とは、珍しい」
原首相は、前回の仕返しにと、少女に少々の挑発を仕掛けた。
「こちらにはまだまだカードがありますが?」
少女は、以外とすぐに怒ったようである。これは、マズイと、原首相は態度を翻した。
「それは勘弁して下さい。で、幸いにも、あなた方とこちらの利害は一致しています。喜んで、その要請を受けましょう」
「ありがとうございます。私達は、利害が一致する限り、味方ですよ」
「政治家としては、一番ありがたい言葉です」
利害が一致するというのは、国家間において最高の関係だ。国家に永遠の友はなく、永遠の敵もなく、ただ、利害があるのみ、なのだから。
「そう言えば、原首相は、私を舐めてませんか?」
少女は、急に俗っぽい話題を切り出した。まあ、答えない訳にはいかなかったので、原首相は適当に答えた。
「何を言うのですか。貴女は、年の割には非常に聡明と見える」
それは、わりかし、本心であった。だが、少女は答えに不服のようであった。
「私の年、幾つか、予想してみて下さい」
「ええ、はあ。ええと、15くらい、ですかね?」
「ふふふ、全く違いますね。正解は、231才でした」
「は?え、に、200?何を仰って……」
原首相はただ、意味が分からなかった。原首相は更に問い詰めようと決心したが、しかし、少女の部下に遮られた。
「姫様、余計なことは言わないで下さい。さあ、早く帰りましょう。あの方も待っておられましょう」
「ああ、そうですね。原首相、無駄話に付き合わせ、失礼しました」
とにかく、目的の交渉は丸く収まり、一向は時計塔を後にした。だが、あの黒衣の男の言葉から察するに、少女があの年なのは割合、真実のようであった。流石にそれは信じ難かった。