表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
1-6_内乱
179/720

近衛の秘密交渉Ⅱ

まさかの、これにⅡが来るんです。近衛大佐も、頑張ってるんですよ。そして、史上最強のネタ回です。例のあいつが出てきます。

崩壊暦214年10月24日14:11


屍人がうろつく荒野を一両の戦車が駆ける。道路は既に朽ち果て、僅かにアスファルトの残骸が残るのみであった。


戦車というものは、存外に速く動ける。外の世界でも使えるように設計されたその戦車は、目の前の屍人を吹き飛ばしながら、ひたすら道無き道を進んでいく。


「もうすぐ到着です。近衛大佐」


その戦車長は同乗している近衛大佐に告げる。


「くれぐれも、事故は起こさんでくれよ」


「もちろんです」


屍人の領域では、戦車でも使わなければまともに行動できない。そして、そこで立ち往生してしまえば、たちまちに屍人に取り囲まれ、喰われてしまうことだろう。


「おお、見えてきた、見えてきた」


やがて、近衛大佐の目的地が見えてきた。それは、荒野にポツリと佇む、古ぼけた時計塔である。


時計塔の周りは、フェンスに囲まれており、屍人は全くいない安全地帯である。フェンスに一箇所だけついている開閉扉に戦車が近ずくと、小さな電子音の後、それは開いた。


その中に、戦車は入っていく。


「ふう、到着だ。お前たちは、ここで待っていてくれ」


そう言うと、近衛大佐は一人戦車から降り、時計塔に向かっていく。時計塔の入り口の扉は、半分腐った木材でできていた。


「失礼するぞ」


扉を軽くノックすると、近衛大佐はおもむろにその奥に入る。しかし、すぐに、その雰囲気をぶち壊す一声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ〜。カフェ、濫觴の撥条塔らんしょうのぜんまいとうへようこそ!」


近衛大佐の前に現れたのは、この終末世界では明らかに異質なメイド服をきた、長髪の女性である。その服装は、客観視すれば落ち着いたデザインではあるが、こんな場所では狂気の沙汰である。


「久し振りだな、ノン。しかしな、アクセス手段が戦車しかないカフェとは、立地が悪すぎるだろう。それに、毎回このくだりを続けるのか?」


そう。いつ会っても、ノンはこの調子なのだ。


「まあまあ、秘境のカフェならではの愛嬌ということで。そうそう、ご注文はいかがしますか?」


「はは。()()カフェだろ。まあ、とりあえず、コーヒーでもくれ」


「かしこまりました!」


そのメイド、ノンは、店の奥に去っていく。もっとも、ここは店と呼べるのかというほどの荒れ具合であるが。それに、カフェなどと自称しながら、メニューの1つもない。


ただ、木のテーブルと椅子が2つずつ置いてある閑静な場所だ。


もはや、自称というより詐称だろう。


「お待たせしました」


ノンは、熱々のコーヒーをすぐに持ってきた。こんな死の世界のド真ん中で、こんなものが出てくるとは、誰も思わないだろう。だが、それは紛れもない本物だ。


「それで、ハーバー中将は、まだ来ていないよな」


「そうですね。そろそろ来るはず…あっ、来ました!」


近衛大佐がハーバー中将の話題を出したちょうどその時、 玄関から、静かなノックが聞こえてきた。すぐにノンは迎えに行く。


「いらっしゃいませ〜。カフェ、濫觴の撥条塔へようこそ!」


「はあ、カフェをするなら、是非、我が国の都市で経営して欲しいものです」


入ってきたのは、いかにも理知的な男、ハーバー中将である。しかし、そんな彼でも、ノンの対応には困るようだ。


「こちらにどうぞ〜」


ハーバー中将は、近衛大佐と向かい合う席に案内された。ハーバー中将は、その席に腰掛ける。


「それでは、コーヒーを一杯頂けますか」


「はい。少し待ってて下さいね」


ノンが去ると、ハーバー中将と近衛大佐は、二人きりである。


「ハーバー中将、この度私を呼んだのは、やはり、例の革命の件についてですか?」


「はい、そうです。チャールズ元帥閣下は、そのご意思を決められました」


近衛大佐が話を切り出す。。今は交渉の場とはいえ、仮にも、敵国の指揮官同士である。その雰囲気は何処となく重い。


「お待たせしました」


すぐに、ノンがコーヒーを持ってきた。そして、ハーバー中将に目の前にそれを置く。


ノンはそこで、二人の険悪の雰囲気に気づいたようだ。


「お二人とも、もっとリラックスして下さいよ〜。見てるこっちも暗くなっちゃいます」


「すまんな。注意しよう」「留意しましょう」


一瞬間が開いた後、二人は、ノンに同じような返事を返す。そのお陰で、少しだけ、空気が軽くなったように見える。


「それで、チャールズ元帥は何と?」


「これより1週間後、革命を起こすとのことです」


「なるほど。こちらも、準備は進んでいます。期限が決まったならば、そちらの都合に合わせましょう」


「ありがとうございます」


ハーバー中将と近衛大佐は、共に、「革命」を志すものである。その利害は、完全に一致した。


「しかし、少し前に受け取った、東郷大将の密書ですが、貴方がいなければ、私には信じられなかった」


「まあ、私がこうして交渉役に選ばれるのも、この説明が省けるからですからね」


「合理的の判断です」


二人は、暫く会話を交わすと、やがて席を立った。


「お帰りですか?」


「はい。この度は、ありがとうございました。」「コーヒー、ごちそうさま」


「またのご来店、お待ちしておりま〜す」


二人は、再びそれぞれの戦車に乗って、それぞれの領土に帰っていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ