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終末後記  作者: Takahiro
1-6_内乱
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作戦伝達

さて、東郷大将と伊藤少将は、第六艦隊司令官の加藤少将に通信をかける。機密保持の為、中継を一切介さない、トランシーバー形式の通信である。


基本的に、と言うか絶対に、屍人の領域に通信基地を置くことなど出来ない。と、すると、離れた都市の間の通信は、通信衛星に頼ることとなる。だが、通信衛星は大日本帝国が管理する全ての通信機器と繋がっているため、傍受される危険が大きい。このような案件に関しては、物理的に近づいてから直接通信をするべきである。


大和、武蔵、出雲、いずれも最新鋭(大和はある意味超旧式だが)の戦艦であるが、こういう設備はしっかり整っているのが、日本品質である。


因みに、衛星に頼らない通信手段としては、短波を大気に反射させることで、遥か遠くと通信することもできる。しかし、通信品質は悪い。所謂テレビ電話が当然で、三次元のデータも送り会うこの時代には、あまり需要はない。


加藤少将がスクリーンに映る。3人で通信をするために、ひとつのスクリーンに二人の将軍が映るような格好となった。


「どうされたのですか?閣下。そして、伊藤少将」


加藤少将も加藤少将で、辞令なしで早速本題に入るのである。まあ、彼女はもとからそういう人だったが。


「加藤少将。少将は、何に忠誠を誓う?」


「なっ、何とは?」


質問に質問で返す無礼を知りながらも、加藤少将は、そうせざるを得ない。東郷大将の眼差しは、加藤少将を試すようであった。


「そうだな、選択肢を出すならば、今上陛下か、帝国か、帝国政府か、どちらかだ」


「うっ、それは……」


さしもの加藤少将も、答えに窮するようだ。これは、何とも選び難い問いだ。天皇に忠誠を誓うと言うのは分かりやすいが、帝国か、帝国政府か、というのは、答え難い。


この文脈からするに、帝国に忠誠を誓うということは、いざとなれば政府を転覆してでも、臣民の命と生活を守るということである。そして、天皇が選択肢にあるならば、天皇を裏切る可能性すらも示唆している。


「私は、、、帝国に、忠誠を誓っています。主君が道を外すなら、それを正すのも、臣下の役目。帝国臣民の為、帝国軍人は行動せねばならないのでしょう」


「そうか。結構。大変結構だ」


東郷大将は、安心したような顔をする。先ほどまでの張りつめた空気は、幾分か軽くなった。


「で、何故にそのようなことを?まさかとは思いますが……」


「そう。そのまさかだよ」


伊藤少将は、不適に微笑む。


「なっ、お二人は、何を企んでいるのですか?」


加藤少将は、今、あるまじきことに思いが至っている。それは、まさか東郷大将がやらかすとは思えないことであった。だが、目の前の二人は、やる気であるとしか思えない。


「これから、私達は、まあまだ閣下と私だけだが、敵は東京にあり!と、叫ぶことになる」


「はあ………本当に、ですか」


加藤少将は、頭を抱えて深くため息を吐く。それだけは、聞きたくなかった。


「ふふ、本当だとも。伊藤少将と私は、これから謀反を起こす。目標は帝国政府、そして、皇居だ」


「まさか、まさか本当に為さるのですか」


「本当だ。そして、少将には、協力を要請したい。これは、命令ではない。だが、少将の力が必要なのだ」


薄々察してはいたが、伊藤少将と東郷大将は、叛乱を起こす気のようだ。いや、彼らなら確実に起こすだろう。そして、加藤少将は、そんな不敬への協力を求められているのだ。


「どうしてなのですか?理由をお聞かせ下さい。もし、閣下が私利私益の為に大逆の罪を犯すのであるならば、私は閣下を処断することも厭いません」


まずは、その理由を尋ねなければならない。東郷大将が何の意味もなしに叛乱を起こすなど、考えられないことだ。


「まずは、先の核攻撃だ。あれは、明らかに不必要な攻撃であった。私は、それを告発する。そして、もうひとつの理由は、この戦争を止めさせることだ」


「戦争を、止めさせる?」


「そうだ。少将も、気づいてはいるだろう。この戦争に、意味などない」


「そっ、そうなのですか?」


基本的に戦闘狂の加藤少将は、戦争の意味などには興味がなかったらしい。加藤少将は、全く話が掴めていない様子だ。


「この戦争の大義名分は、米連邦のオーストラリア侵攻ですが、政治家達の思惑としては、国内の不満を戦争の熱でかき消してしまおうとして、開戦に至ったのですよ。米連邦も似たようなものです」


「ほうほう。それで、私たちは無意味な血を流していると」


加藤少将は、伊藤少将の話を聞きながら、何度も頷く。加藤少将も、事情が掴めたようだ。この戦争に、大義はなかったのである。


「そうだ。我々は、この戦争を終わらせねばならない」


「全て、わかりました。そうだあるなら、私は、閣下にお味方しましょう。真の動機に関しては、概ね察しました」


「助かる。ありがとう。これは、帝国陸軍大将としてではなく、私個人からの感謝の気持ちだ。もうじき、この役職も消えるからな」


東郷大将は、来るその日への覚悟を決めていた。東郷五十六という一人の男として、彼は行動すると決めたのだ。


東郷大将には、帝国と皇室への忠誠よりも大きな大義があるのだ。


「詳しいことは後日詰めよう。今日は、ひとまず解散だ」


3人の通信は終了した。以後は、通信衛星も使い放題だ。





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