BボートにてII
サブストーリーです。
「どうも、こんにちは。改めて、石井史郎と言う」
艦上に上がってきた男は、帽子を抑えながら、軽く礼をした。その様子は、東洋人のそれそのものであった。
「ええ。こんにちは。私は、国家社会主義ヨーロッパ労働者党の総裁、ジークルーン・ヘスと言います。ひとまずは、私たちの危機を救ってくれて、ありがとう」
ヘス総統は、この未知の存在に対しても、一切たじろぐことはなかった。だが、この男の正体は、全くもって分からない。この男は、帽子を落とすことすらない程に、完璧に屍人を御していたのだ。
「それでだ、私は、何の用もなく君達を救いに来たのではない」
NSの船員は、その言葉に、大きな不安を抱いた。ある者は、とても怯えた顔をしていた。だが、ヘス総統はそうではない。
「でしょうね。貴方を、誰も見たことも、聞いたこともないのが、いい証拠です。貴方は、何の為に来たのですか?」
この男が慈善活動で人間を助けているようなら、多くの者がそれを見ているはずである。だが、そんな者はおらず、ヒトに助けられたか、のたれ死んだかだけだ。
「世界は今、激しく動いている。200年の沈黙は破られ、世界は振るいにかけられている。何を言っているか、わかるかな?」
「ええ。勿論」
アフリカ内戦の勃発、豪州事変を皮切りに、世界はあっという間に動き始めた。誰かが歯車を回したように、全てが連鎖して動いたのだ。勿論、歯車が導く世界は、誰も知らない。
「それでだ。私が来たのは、君らに力を貸す為だ」
「それは、どうしてですか?」
「君もなかなかがめついな。まあいい。私は、世界がこのまま停滞することを、断じて認めない。ナポレオンやヒトラーの時のように、世界には、イレギュラーが必要だ」
文明に限らず、世界のありとあらゆる進化は、争いの中で飛躍的に進んできた。争いがなければ、人類の文明は1000年は遅れていたことだろう。そして、それが最も良く表出するのが、戦争である。
その時代では、戦争を引き起こした重罪人として処断されるかもしれないが、人類全体からしたら、紛れもない善行者である。
この男が言いたいことは、さしづめ、そういうことだろう。
「なるほど。私たちに、イレギュラーとなれと言うのですね」
「まさしく。そして、諸君には、ヨーロッパを席巻する力を与えよう」
「肝心の、力、とは?」
「力とは、簡単に言うと、敵の力を無力化する力だ。私がさっき披露したものでもある。この力は、ある種の電子対抗手段と言えるだろう」
「ありがとうございます。その力、是非ともお与えください」
「勿論だ。私はその為に来たのだから」
そう言うと、男は、奇妙な機械を取り出した。正六角形をした、手の平に乗るほどの大きさのものである。だが、それは全く初めて見るものであった。
「これが、全てだ。これで、諸君がゾンビと呼ぶ存在を操ることが出来る」
「ありがとう」
ヘス総統は、その機械を受け取った。見た目よりも重いものであった。
かくして、NSEAPに新たな希望がもたらされた。