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終末後記  作者: Takahiro
1-5_大東亜連合
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作戦会議

ジャカルタに向かう二個艦隊は連合艦隊ではない。互いの指揮権は独立し、それらが一時的に協力しているに過ぎないのだ。つまり、二個艦隊全体の司令官はおらず、決定は両艦隊の合議によってなされる。


東郷大将は、作戦を決める為、鈴木大将と通信をしている。スクリーンに写った鈴木大将は、前に会った時より更に派手な軍服を纏っている。真っ白な軍服に数多の勲章をぶら下げ、金色の肩章をつけ、頭には豪華な二角正帽である。その軍服は、天皇直属の近衛にのみ許された格好であり、深い緑の陸軍とは対照的である。


「問答無用に包囲殲滅で、よろしいですかねえ?」


「最悪の手段としては、認めよう。だがな、何とか犠牲を抑えようとは思わないのか?」


叛乱軍との戦闘に至った場合は、圧倒的な戦力でもって敵を包囲し、一切の抵抗を赦さないままに殲滅する予定である。それが最も安全な策だ。


「別段、インドネシア人の命など、大したものではないでしょう?どうして、わざわざ皇民の命を無駄に散らさねばならないのですか?」


鈴木大将は、極めて偏った皇道派の男である。彼にしてみれば、わざわざ敵と交渉などせず、さっさと敵を討ち滅ぼしてしまえばいいのだ。それは、東郷大将の計画とは真っ向からぶつかるものである。


鈴木大将は、さも当然のように、皇民以外の命は紙屑に等しいと言ってのけたのだ。


「だがな、今は、近衛艦隊の力が必要なのだ。残念ながら、第一艦隊だけでは頭数が足りない」


「はあ。どうしても人を殺したくないのですか?」


「そうだ」


首をかしげる鈴木大将に、東郷大将は毅然とした態度で言い放つ。東郷大将は、サンフランシスコでの爆撃以来、民間人を殺すことを戒めてきたのだ。


やれやれと首を振って、鈴木大将は言う。


「では、そうですね、2時間だけ、猶予を差し上げましょう。その間に敵が降伏しなければ、焼き尽くすのみですよ」


「わかった。それくらいあれば十分だ。感謝しよう」


「いつか借りは返してもらいますよ」


「そうだな」


東郷大将の必死の説得の末、鈴木大将はついに折れた。まあ、鈴木大将はからかい半分のようにしており、彼自身の価値観に変化はないようだが。


「では、そろそろ戦争の話をしましょうか」


戦争と言い切ったからには、それは流血を意味する。そして、この状況においては、叛乱軍を実力で以って鎮圧するという状況を指すのだろう。鈴木大将は、それを前提としているのだ。


「艦隊戦において、基本は包囲だ。それは違わないだろう?」


「ええ、その通りです。色々と詰めるところはありますが、概ねその方針は決定です」


両大将の合意は、鎮圧作戦そのものの決定を意味する。少ない敵を包囲して滅多打ちにするのは前からの話であるが、ここに、一応正式な決定が為された。だが、鈴木大将が話したかったのはそこではないようである。


「敵艦隊、艦隊と言えるかも怪しい下賤な衆ですが、を殲滅したとしましょう。大将は、これで敵が降伏してくれるとお思いですか?」


確かに、東郷大将の頭は対米戦争の常識に囚われていた。東郷大将には、艦隊のない都市が抵抗を示すことなどない、という前提があったのだ。だが、言われてみれば、敵はそもそも狂信的な連中であり、艦隊がなくなった位で白旗を挙げるとも思えなくなってきた。


「私は、奴らをジャカルタごと焼いてしまおうと計画しています」


「空爆で事を決しようと言うのか?」


「その通りです。わざわざ帝国の将兵をジャカルタに降ろす必要はないのですよ」


鈴木大将の考えは、相変わらずのものだ。二個艦隊による徹底した空爆を実施し、ジャカルタを瓦礫の山にまでする。そうすれば、こちらには一兵の損害もなく、テロリストは舞台から退場する訳だ。だが、当然ながらそれは、数え切れないほどの民間人を巻き込むことである。


「本気か?第一艦隊には、陸戦を経験済みの特殊部隊がある。それを使えば、一般の戦闘の範疇で叛乱を制圧できるが?」


「本気ですよ。大将に無用な手間をかけない為にも、安上がりのこれで行きましょう」


楽ではあるが、決して楽ではない。誰が、人が仰山いるビルを崩しながら平常のままでいられようか。だが、天皇の命令とあらば、従うしかない。散々に悩んだのち、東郷大将は決断した。


「わかった。それで行こう」


「ありがとうございます。これで、貸し借りはチャラですかね」


大綱は決定された。艦隊はなおも進み続ける。




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