ケープタウンにてⅡ
サブストーリーです。最近ネタがないですね。
アフリカ南端のケープタウンは、アフリカ連邦共和国の首都であり、最大の都市である。
23世紀中頃に、アフリカ諸都市は一つの連邦国家を形成した。つまり、他の列強勢力とは違い、アフリカ連邦共和国は、文明崩壊の後に建国されたのである。
ケープタウンが首都として選ばれた理由は、南アフリカ共和国がアフリカで最強の国家であったからである。特に特別な理由はない。
だが、最南端に首都を作ったことで、首都防衛は極めて容易となった。6年前の反乱の際にも、南端に半円形の前線を敷くことで、見事アフリカ連邦共和国は生き延びたのだ。
そんなケープタウンには、大統領官邸がある。
アガトクレス大統領は、ここで政務に勤しんでいた。だが、そこに、ある客が訪れた。それは、先にアデナウアー大統領を訪れた者であった。
ドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
「どうもー。こんにちは〜」
ドアをゆっくりと明けながら入って来たのは、黒いドレスに身を包んだ女性であった。彼女は、相変わらず、ふざけているようだ。
「ウィリアムから聞いたぞ。何だか、面白いものを渡したそうだな」
アガトクレス大統領は、ペンを取りながら応えた。一切ノンに視線を合わせようとしない姿は、ノンの事など、特に意に介していないようであった。いや、と言うか、こんな奴と顔を合わせたくねえ、というのが本心だった。
「おお。話が早いね。それだったら、何が来るかな?」
「戦略論のことか?」
「正解。アデナウアー大統領は、こっちに協力的だよ」
「だろうな」
アガトクレス大統領は、なおも顔を上げなかった。だが、ノンが予想外のことを口にすると、やっとその視線を上げる。
「実は、アメリカは世界から見捨てられることになったよ」
「何?三国同盟が、新世界秩序の柱であるんじゃなかったのか?」
アガトクレス大統領は、やっとまともな反応を返した。対して、ノンは、微笑みながら続ける。
「私の価値基準にも、Vの価値基準にも、もちろんSの価値基準にも、アメリカ政府は認められなかった。だから、アメリカは、そろそろお終いだね」
ノンの言葉は、なかなかに恐ろしいものである。たわいもないことのように、列強の一つを滅ぼそうと言ったのであるからだ。
「ん?イルクナーとかいうのは、味方ではなくなったと?」
「ああ、そうだ、ね〜……」
ノンは、いかにもバツが悪そうに言った。イルクナー卿が敵になるとすると、厄介極まりない。
「Vは、天皇の方に行っちゃた」
「そうか。まあ、あれの行動規範からすれば、おかしくはない行動、という認識であっているか?」
「うん」
「で、お前は、ヨーロッパーアフリカ枢軸で何とかしろ、と言いに来たんだな?」
「はい、そうです」
ノンは、とかく気持ちが表に出る奴である。既に、自らの失態に冷や汗をかいているようだ。その後、大した要件もなく、無駄話が続いた。そして、それもすぐにネタ切れに終わった。
「わかった。では、引き続き頼むぞ」
「お任せを」
ノンは、背筋をピンと伸ばし応え、そして部屋を去っていった。つくづく、執務室に自分しかいなくて良かったと、アガトクレス大統領は思ったのであった。