「特攻」作戦
崩壊暦213年12月11日02:04
「て、敵艦隊が急速にこちらに接近してきています!敵の戦艦、巡洋艦全てです!」
この少し前、日本艦隊は突如砲撃をやめ、米艦隊に突撃を仕掛けてきた。アイオワ内は半ばパニック状態である。
「日本軍は特攻でもしようというのか!」
そう叫んだのはチャールズ元帥。かつて、米軍が窮余の策で繰り出した「特攻」。アメリカ人なら、それへの拒否反応は強い。
だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「戦艦を前面に出し、艦隊の盾にせよ。また、駆逐艦は対艦ミサイル用意。敵が接近し次第斉射する」
日本軍の不可解な行動への対応策はこのようなものだ。
対艦ミサイルというのは、ある程度の距離があれば、ほとんどが迎撃される。これは両軍共通の事情だ。
しかし、今回のような接近戦ならば、迎撃される前に当たると、チャールズ元帥は踏んでいる。
「戦艦、巡洋艦は全力で攻撃。出来るだけ敵の勢いを削げ!」
米艦隊は砲弾を日本艦隊に浴びせ続ける。極一部は命中しているが、あまり効果がないようだ。その勢いを削ぐには至らなかった。
「閣下、一度砲火をやめ、敵が接近し次第斉射させましょう。敵の二倍の砲弾を一挙に食らわせれば、敵に打撃を与えられるでしょう」
奇しくも、ハーバー中将は東條中佐と同じ考えに至ったようだ。
「そうだな。敵が迫り次第、斉射の準備をするよう通達してくれ」
「敵、2kmまで接近」
「全艦、主砲装填。追って指示するまで射撃は控えよ」
この瞬間、両軍の間から一切の攻撃が途絶えた。ただただエンジン音だけが聞こえる。
「敵、右翼側に回頭」
「来るか」
敵はその側面を米艦隊に向け、砲撃の準備をとった。米艦隊もその砲を向けた。だが砲弾は放たれない。
嵐の前の静寂とはこのようなものなのだろう。
「撃てー!!」
チャールズ元帥は檄を飛ばした。
米艦隊の全ての主砲が一斉に火を噴く。その衝撃は地上の屍人にも届いているように見える。
そして、ほぼ同じタイミングで、日本艦隊も主砲を斉射した。やはり、日本の主砲の方が音が重い。だが数は少ない。
「イリノイ、ミシシッピ主機停止!コロラド、テネシー中破!」
被害報告が次々と上がってくる。やはり、日本艦隊は強い。
だが、米艦隊には対艦ミサイルがある。砲の威力は明らかに負けているが、代わりに米軍は強力なミサイルを作ることに徹した。
そしてそれは、主砲斉射と同時に放たれたはずだ。
「な、また、あれか!」
被害報告と同時にチャールズ元帥は叫んでいる。
対艦ミサイルは殆どが墜とされていた。
日本艦隊は、先ほど使った炸裂弾を再び使用していた。
炸裂弾は装甲目標に対する攻撃力は非常に低い。戦艦や巡洋艦はほぼ無傷である。
だが、ミサイルとなると話は違う。広範囲を攻撃する炸裂弾に簡単に迎撃されてしまうのだ。
「どうして、これほど完璧な場所で炸裂するんだ。あの弾は!」
チャールズ元帥はこの理由が理解できない。この至近距離で、この一瞬で信管を調整するなど人間業とは思えなかった。
「各艦、大破した艦を艦隊中央に入れて守り、その他の艦は対艦戦闘と、対空戦闘の用意を万全にせよ」
やがて、日本軍は離れていき、なおも砲戦は続いているが、一時の落ち着きが訪れる。
「閣下、やもすれば敵は、旧文明の兵器を使っているのかもしれません。今回の攻撃、人工知能クラスのコンピュータの存在が想定されます」
ハーバー中将が達した結論は、敵が旧文明が造った兵器を使っているということであった。
「確かに、それはこれまでの出来事の説明になりうる。だが、些か200年以上前の兵器がここで使われているというのは現実味がないのではないか?」
チャールズ元帥は当然の疑念を口にする。
「私もそうは思いました。しかし、私にはこれ以上に合理的な説明は考えられません。いずれにせよ、敵が非常に優秀にコンピュータを持っているのは確かでしょう。それを前提に今後の方策を決めるべきかと存じます」
この場で敵の正体を論じるのは無益である。今は、そのようなものがあるとわかれば十分だ。
「重ねて、申し上げます。もはや、この空域での戦闘継続は困難です。サンフランシスコへ退くべきでしょう」
「仕方ない、か。負けてはもとの子がない。退却だ」
その時、彼らにとって最悪の知らせが飛んできた。
「敵、航空艦隊、襲来!」
「ああ、ここで来たか」
稼働率が激減した艦隊は、敵を迎撃できるのか。答えはすぐに明らかになるだろう。
大和様々ですね。