後処理
チャールズ元帥とハーバー中将の活躍は、残念ながら前回のみです。
崩壊暦214年9月21日14:32
大阪でのテロからおよそ2日後、都市にはつかの間の平穏が戻っていた。テロリストが掃討された後には、市民生活は全く普通のものに戻った。
牟田口大尉は一命をとりとめ、病院で療養中である。もっとも、すぐに前線に戻ってくるだろうが。また、犠牲者への対処は、主に警察が行った。
警察では、大規模な武装組織を持っていなかった反省から、機動隊の増強が検討されているらしい。陸軍にも、協力のオファーがかかっている。
一方、東條中佐は、東郷大将のもとへ報告に舞い戻った。東郷大将も、警察と話をつけ、協力を引き出したりと、後方から多くの支援をしてくれていたのだ。
「しかし、テロに訴える者が現れるとは、帝国の統治もまだまだなのでしょうか?」
「完璧に全人民を満足させる統治などないさ、中佐」
二人が議論しているのは、今回のテロの背景についてである。テロリストは、大東亜連合の解体を訴えていた。まさか多数派の人民がそう思っているとは思えないが、不満におもうものがいるのもまた、事実である。
アメリカからすれば、これ見よがしとプロパガンダに使える材料だろう。「日本帝国の不当な抑圧」、とでも言うのだろうか。まあ古今東西、相手の体制を貶めるのは常套手段である。
「アメリカの介入は、確実でしょう」
「それは、そうだろう。まあ、後は警察の仕事だ。軍が関わるところではない。いや、関わらないで済むなら、それがいいのだろうな」
あくまで、人々を統制するのは警察の仕事である。軍は、有事の際にのみ出るべきだ。
「それはそうと、給油の方は終わったのかね?」
「ああ、あと数時間で補給は完了するそうです」
そもそも、第一艦隊が大阪にいるのは、燃料切れという残念の理由からであった。それも、もうじき完了するそうだ。
東郷大将は静かに待っているつもりだったが、そんな時、一人の男が大和を訪れた。入ってきたのは、貴族然としていて、豪奢な軍服に身を纏った、比較的若い将軍である。
「鈴木大将か。とりあえず、こんにちは」
「どうも、東郷大将。こんにちは」
鈴木大将は、近衛第一艦隊の司令官である。また、同名の鈴木中将とは別人だ。そして、東郷大将とは仲が良くない。
かなりの年齢差がある二人だが、鈴木大将は尊大な態度である。まあ、階級は同じだから文句は言えないのだが。
「それで、どうしてこんなところにいるんだ?」
冷静に考えると、こんなところに艦隊を放っておいて司令官だけないるというのは、おかしな話である。
「そうですね、お話するため、とでも言いましょうか」
「ほう、ただの暇人か」
「人聞きが悪いですねえ。一応、近衛の一人として、陛下からの勅命を賜ったのですが」
このうざったい男は、天皇から命じられて来たという。ただ、天皇はそんな意味不明なことは言わないだろうから、何か裏があるのだろう。
「ところで、先の暴動の鎮圧に当たったというのは、どなたですか?」
「そこの東條中佐だが」
「ああ、少し、陛下の為に、鎮圧の様子を聞く必要がありましてね」
鈴木大将は、東條中佐に話しかける。
「東條中佐。中佐から見て、テロリストはどう見えた?」
鈴木大将は、これまでのふざけた態度から、急激にに真剣な顔つきとなる。その鈴木大将の姿は、一流の刑事のようだ。
「テロリストは、とても、まるで、洗脳されているかのようでした」
「どういうことだ?」
東條中佐から見て、テロリストはまともにものを考えているとは思えなかった。何を言っても聞き入れず、同じ主張をオウムのように返すだけであったからだ。そして、その様子は、自らの考えで動いているというよりも、教え込まれたことをただ返している子供のようであったのだ。
それを聞く鈴木大将は、何かに合点がいっているようであった。
「なるほど。良きことだ。ふむ、そのくらいで十分だ」
「これだけで、宜しいのですか?」
「そうだ。もう下がれ」
「はっ。では、失礼致します」
もともと鈴木大将が割って入ってきた訳だが、文句の一つも出さず、東條中佐は部屋を出ていった。そして、この大将二人の会話は、他の将校には知られてはならないものである。
「で、本当は何で来たんだ?」
「とりあえず、目的の半分は達成されました。東條中佐からの言葉は、確信に値するものでありましたよ」
「残り半分は?」
「大将に報告があります。例の叛乱は、まもなく起こります。覚悟しておいて下さいね」
鈴木大将は、不敵な笑みを浮かべて言う。まだ、争乱は終わっていないのだ。
「私は、帝都に戻ります。また会いましょう」
鈴木大将は去っていった。東郷大将はため息をついた。




