攻城戦
「3、2、1、突入!」
ドアを押し開け、牟田口大尉以下の部隊は建物に突入した。
中は、先の作戦と同様、静けさに包まれている。照明や、その他の電子機器は一切なりを潜めており、そこは、この電子の時代においては、最早異世界のようである。
「各員、上に上がるぞ」
「了解」
部隊は、順当にビルの上層を目指していき、人質及びテロリストが居ると思われる階へと向かっていく。今回もまた、一切人の気配はない。
各階をスキャンしながら部隊は登っていく。そして、敵がいると思われる階の一つ下にて、ついに敵の姿が捉えられた。
「敵は、重火器で武装しているようです」
「ほう。本気で抗戦する気か」
赤外線センサーには、階段の前に土嚢を積み、大型のガトリング砲を構えるテロリストの姿が映る。幸いにも、こちらの存在には勘づいていないようだが。
「どうします?」
「とりあえず、東條中佐に連絡だ」
牟田口大尉は、静かに東條中佐に連絡をする。
「なるほど。そこも、か」
「他も、同様なのですか」
牟田口大尉の部隊は、テロリスト鎮圧作戦の一部隊に過ぎない。既に、テロリストが居ると思われる最上階は、ヘリコプターで包囲している。そこから空挺部隊を送り込んでいる訳だが、彼らも、ここと同様、重火器の陣地に阻まれているようだ。
「突破は出来そうですか?」
「現状では、難しいな。既に死人が3人出ているし、やつらのガトリング砲は恐らく、我々の機動装甲服を貫くものだ」
他の隊も、テロリストの陣地を阻まれているそうだ。機動装甲服を貫かれるとあれば、確かに無理はない。また、陸軍としては、できるだけ死人を出したくないのである。
「ならば、我々が先陣を切ろうか」
牟田口大尉は言う。
「はあ、どうやってですか?敵の前に出れば、蜂の巣にされますが」
「そうだな、この部隊で一番デカイ武器は………これだな。ちょっと貸せ」
そう言って牟田口大尉が手を伸ばしたのは、部隊に1つだけあるグレネードランチャーである。
「こいつで敵の陣地を崩す。その隙に、お前たちは陣地を突破しろ」
「なっ、大尉殿がその役目をするのですか?」
牟田口大尉の計画は、敵の陣地にグレネードを一発放ち、陣地を破壊しようというものである。だが、グレネードランチャーを放つため敵の前に出れば、一瞬でガトリング砲の餌食となるだろう。そして、そんな役目を牟田口大尉はしようと言うのだ。
「日本男児の本懐さ。お前らに任せるぞ」
牟田口大尉は、にやけながら言う。彼は、帝国屈指の戦闘狂なのである。そして、それに部下思いの性格が重なると、決死の作戦に挑む指揮官の図が出来上がる訳である。
さて、敵は、こちらを察し始めたらしい。ガトリング砲の銃口は、階段の下に向けられた。
「じゃあ、行くぞ」
牟田口大尉はグレネードランチャーを構え、階段の影で敵を見据える。
「敵上で爆発に設定、と」
グレネードランチャーも準備が整った。
そして、牟田口大尉は、敵の目前に飛び出した。
驚く敵はしかし、一瞬にしてガトリング砲を回した。凄まじい数の弾丸が階段を打つ。その中に、牟田口大尉は飛び込んだ。
「うらっ!」
そして、牟田口大尉は正確に、しかし一瞬でグレネードランチャーを放った。グレネードは敵に向かって飛んでいく。
だが敵の攻撃は止まらない。牟田口大尉には、なもお弾丸が飛来している。
そして、僅かな間を開け、敵の頭上でグレネードが炸裂した。破片は敵に降り注いだ。いや、降り注いだという言葉には収まらず、鉄の欠片が敵に次々と突き刺さったのだ。爆炎が踊り場を埋め尽くした。
当然、ガトリング砲を操作していたテロリストは全滅し、また、後ろの敵も大怪我を負った。
同時に、牟田口大尉の部隊は、自動小銃を一斉に敵に向け、今度はこちらの弾丸がテロリストを襲う。弾丸は、残る敵を次々と貫く。
敵はたちまちに崩れ、奥に逃げていった。それを部隊は追撃する。最早、敵の陣地は破壊した。ここは突破できただろう。
さて、情勢の有利を悟ってか、数人の部下が牟田口大尉のもとにやって来た。
「大尉殿、お怪我の具合は如何ですか?」
「あ、ああ。まあ、大丈夫、だ」
だが、牟田口大尉の声は途切れ途切れである。牟田口大尉は、最終的に5発の弾丸を食らった。これは、機動装甲服を貫通した弾丸である。
幸いにも急所は外れているが、牟田口大尉はとても平気とは思えない。
「外に運びます。いいですね?」
「あ、あ」
部隊は、牟田口大尉を安全かつ医療設備のある外へと運んでいった。
地上では、既に負傷者の手当てが行われている。そんな中、東條中佐が駆けよって来た。
「中佐殿、作戦は、成功、しましたか?」
「勿論だ。あの後、無事にテロリストは殺害し、人質も、ある程度は救えた」
牟田口大尉の活躍の後に、彼の部隊は敵の後ろを襲った。陣地は総崩れとなり、テロリストは完全に戦闘能力を失った。テロリストは帝国軍が全滅させたが、人質に関しては、半分程度しか救えなかった。
「そう、ですか」
かくして、大阪でのテロ事件は幕引きに至ったのである。