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終末後記  作者: Takahiro
1-5_大東亜連合
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解放交渉Ⅰ

『我々、東アジア解放戦線は、大日本帝国政府に対し、以下のことを要求する。

一つ、東アジア諸国よりの搾取の即時停止。

一つ、我々へ一切危害を加えないこと、である』


サイレンから響き渡った要求は、信じ難い程に強硬なものである。だいたい、帝国がいつ搾取なんかしたのかと問いたいところだが、今は黙って聞くしかない。


『まず、あらかじめ伝えておくが、我々には67人の人質がいる。もし、我々がいるビルに一人でも侵入した際には、即座にそれらを斬り殺す。第七ビルの入り口にいる者共よ、我々は既に察しているぞ』


敵は、こちらの動きをある程度は把握しているらしい。しかし、本来なはそんな筈はないのだ。敵の正体は掴めず、不気味としか言い様がない。


「大尉、どうしますか?」


先ほど名指しされた対象は、十中八九牟田口大尉の部隊である。あの宣言を聞かされると、突入も渋られる。


「くっ、突入は中止だ」


牟田口大尉は、苦虫を噛んだような表情で言う。これが敵のブラフである可能性は否定できない。いや、寧ろその公算の方が大きい。しかし、万が一にも人質が皆殺しに遭う可能性があるならば、突入などは到底出来ないのだ。


「ひとまずはビルの周囲を包囲する。私は、東條中佐に連絡し、指示を待つ」


ひとまず選抜隊はその場を離れ、ビルの入り口を狙撃できる位置についた。敵からは見えない位置である。そして、牟田口大尉は、東條中佐に状況を伝える。


「なるほどな。ひとまずは、敵情な観察に努めるしかないな。後は、テロリストの反応を見る。それと、まもなく増援が到着するから、私もそちらに向かう」


「了解致しました」


この未曾有のテロの前に、第一艦隊は休暇返上を始めたようだ。完全武装の部隊が続々と集まっている。だが、それでも行動は起こせない。数が多かろうが、あまり意味はないのである。


「では、通信終わり」


東條中佐との通信が終わる。だが、その瞬間、それを待ちわびたかのように、テロリストの声明が響いた。


『これより、我々は、使者を遣わす。彼が持つデバイスを以て、我々と交渉を行え。なお、使者に一切の危害を加えることは許されない』


テロリストは、交渉を始めたいらしい。


「使者、とは。引っ捕らえますか?」


「いや、生きて無傷で返せ。また、全部隊に、発砲を禁じよ」


牟田口大尉は、今のところはテロリストの言う通りにするつもりだ。こんなところで人質を殺させる訳にはいかない。そして、例え「使者」を捕まえたとしても、それで、多くの敵の何かが変わる訳ではない。


牟田口大尉は、人名を優先すべしということを心に刻んでいるのだ。皇軍の役目は、臣民の命と生活を守ることである。


「来たか」


ビルの入り口は自然と開き、中から一人の男が出てきた。悪魔的な微笑みを湛え、こんな場所では奇妙な燕尾服に身を包んだ、長身の男である。


「誰か!いないのですか?せっかく、このデバイスをお届けに来たのに」


男は、虚空に向かって叫ぶ。それは、軍が回りにひしめいていることを知っての行為だろう。


「なっ、大尉」


「ふっ、私が行ってやるさ。銃を構えて見ていろ」


牟田口大尉は、部下の静止を振り切り、隠れ場所を出ていく。牟田口大尉は、すぐに男の目にとまった。


「おお、これはこれは。軍人さんですか?」


「そうだ。帝国陸軍大尉、牟田口という」


二人は、相手の手の内を探り合う。


「安心して下さい。銃なんて、持っていないですよ」


「奇遇だな。私もだ」


二人は、それぞれ武器を持っていないと主張する。だが、牟田口大尉は拳銃を隠し持っている。同様に、相手が武器を持っていない保証などない。


「安心して下さい。私には、貴方を殺すメリットはない」


「ほう。どういうことかな?」


「もし、私が貴方を殺せば、同時に、私の仲間も殺されるでしょう。まともに戦えば勝てないことなど、承知の上。我々にとって、人質の命などどうでもいいですが、我々の命は気にするのでね」


牟田口大尉が殺されれば、帝国陸軍は強行突破に移るだろう。そうなれば、テロリストにとっては殺されて終わるだけである。


「では、こちらもお前を殺すメリットはない」


「でしょうね」


牟田口大尉もまた、テロリストを今殺すメリットはない。ここでテロリストを殺せば、人質はまず助からない。それでは、この作戦の意義自体がなくなる。テロを鎮圧したいだけなら、ビルごと吹き飛ばせば良いのである。


「今、私たちの利益は一致しました。さあ、これを取って下さい」


男は、とても片手では操作出来ないほどの大きなデバイスを掲げる。それが例のデバイスだろう。


「わかった。受け取ろう」


牟田口大尉は、ゆっくりと男に近づく。


男は、デバイスを差し出す。その様子からは、怯えというものが全く感じられなかった。


「はい、どうぞ」


「ああ」


デバイスが受け渡された。


「では、私は失礼します」


「そうか」


牟田口大尉は敵を攻撃できない。男は、悠々とビルに戻っていった。



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