予想外の予想外
ここから結構長くなっちゃいました。
東條中佐は車を降り、黒煙の先を見る。
すると、黒煙の中から、逃げ惑う人々がどっと出てきた。彼らは皆、怯えきっている。東條中佐は、煙の奥で起こっている事情を尋ねようと、比較的冷静な男を捕まえた。
「何が起こったんだ?」
「そ、それが、多分、テロだ」
「テロだって?」
男も、事情は詳しくはわからないらしい。周りの人々が逃げているので、それに紛れてきただけだと言う。
「どうして、テロってことになったんだ?」
「それが、なんだが、車が爆発したらしい」
「事故ってことではないのか?」
「それが、よくわからんが、沢山爆発したとかで、それも建物に突っ込んだらしい」
男は、実際には見ていないようだが、とりあえず聞いた情報を伝えてきた。そして、東條中佐には、その車とやらに見覚えがある。男の話も、幾分、信憑性があるように思える。
「多分、あんたも逃げたほうが身のためだ」
男の目には、東條中佐はただの民間人と写るようだ。それもそのはず、今の東條中佐は軍服など着ていないのだ。
「実はな、私は軍人なんだ」
「ぐっ、軍人?」
男は、豆鉄砲を受けた鳩のように驚く。
「それも大佐だ。この事態は、私が鎮めよう」
「そっ、そうか、ああ、いや、そうですか。では、お勤め、頑張って下さい」
「ああ」
男は、橋の方に駆けていった。だが、その瞬間、決定的な証拠が聞こえてきた。
ダダダ、ダダダと、自動小銃の銃声が聞こえてきたのだ。その音に、群衆はパニックに陥る。群衆は我先にと駆け出し、もはや狂乱状態である。こうなれば、東條中佐には収集がつけられない。幸いにも、そのまま進んでくれれば人死には出ないが。
「さて、仕事に移るか。全軍用チャンネルで、無線を開け。それと、艦隊に連絡し、増援を手配せよ」
東條中佐は、車の運転手に指示を出す。車に備え付けの貧弱な無線機材ではあるが、大阪の中ぐらいならば、通信ができるだろう。
東條中佐は大阪の立体地図を開き、報告を待つ。
数分で、続々と報告が寄せられてきた。手元の地図上に、情報が次々と継ぎ足されていく。車の爆発地点、銃声の元、そしてテロリストの位置。すべてが筒抜けである。
同時に、第一艦隊からも増援が来るとの返信があった。また、憲兵隊もすぐに来るらしい。
東條中佐は、車中の極小の司令室の中で、部隊を動かし始める。
「非難誘導を最優先に、また、敵を観察し続けよ。D3、そこを保持せよ。A2、住民をこの区画へ」
立体地図上には、全艦兵員の現在地及び、彼らが確認する敵と味方の位置が表示される。東條中佐は、住民を現場から遠ざけ、同時にテロリストの監視を続けさせる。
「武器は、警察から借りてくれ。それと、警察との連絡は密にするように」
兵員とは言っても、まさか都市に武器を持ち込んではいない。唯一武器がある場所と言えば、警察署くらいだろう。拳銃くらいしかないだろうが、何もないよりはマシである。
そして、当然ながら、警察もテロリストを包囲し始めたようだ。だが、その数は少ない。帝国は治安が良すぎるが故に、このような事態への対処が未熟なのだ。
「銃器については、あとで補償するとしよう。今は、出し惜しみはなしだ」
「全部隊、ご指示通りの場所に着いたとのことです」
「わかった。では、増援を待とう」
テロリストは、現在、大阪の中央を貫く大通りの左右にある2つのビルを占拠している。そして、それは橋にかなり近いビルであり、そのせいで警察の増援が来れないのだ。また、大型の銃器を多数保持しているとの報告もある。
今の貧弱な装備では、無用の犠牲が出る可能性が高い。
両勢力がにらみ会うこと20分。お互いに一発の銃弾も放たれなかった。しかし、状況は変化する。
橋の淡路島側から、数台の装甲車がやって来ている。それは軍、それも戦艦大和のものである。
「中佐殿、私は、この混成大隊を率いる、牟田口大尉と申します。早速ですが、ご指示を願います」
装甲車から降りてきたのは、若く、正義感に満ちたような男である。既に全員が装甲服を纏い、いつでも戦闘に移れる状態だ。
「それでは、作戦を説明しよう。と言っても、大した策もないんだがな」
東條中佐は、必要最低限の情報を手早く伝える。人質も取られているこの状況では、一刻でも早く作戦を実行しなければならないのだ。
「了解致しました。それでは、これより、作戦を実行します」
装甲車は、橋を進んでいく。同時に、東條中佐の司令室も装甲車と立派になった。これよりは、テロリストの鎮圧作戦が始まるのである。
牟田口大尉は草と自覚しております。