東條の作戦Ⅱ
崩壊暦213年12月11日01:12
「敵が艦砲の射程内に入りました。閣下、攻撃の許可を」
東條中佐は攻撃許可を求める。ついに、砲撃戦が展開される距離まで、両軍は迫っていた。いつ誰が火蓋を切ろうともおかしくない。
「許可する。全艦、攻撃開始!」
東郷大将はついにその命令を下した。砲撃の合図である。東郷大将の号令で、大和を筆頭とした飛行戦艦の主砲が唸りだす。
「大和はイリノイ。長門、金剛はテネシー。霧島、榛名はアイオワ。巡洋艦、駆逐艦は各艦射程内の敵。全艦、攻撃せよ!」
「目標、敵飛行戦艦イリノイ。攻撃します」
大和が放った砲弾が開戦を告げた。
他の戦艦も次々と主砲を斉射。敵に砲弾を浴びせる。
しかし、負けじと敵も砲撃を開始する。その様子は、400年前に繰り広げられた大激戦、インド洋海戦を思わせる。
絶え間なく続く轟音。白煙は艦隊を包み込む。
「イリノイ艦橋に命中!イリノイからの攻撃が止まりました!」
「結構!次はオリンピアを狙うぞ!」
「はい」
大和はその牙を次の獲物に向けた。
大和は照準を自動化したため、目標を決めれば自動で照準、攻撃を行う。そして、そのせいで人間の仕事がほとんどない。だが精度は非常に高い。
よく、他の艦にもAIを積めば良いとよく言われるが、まず他の艦では電力が確保できない。
この世界では、コンピューター関連の技術は恐ろしいほど発達していない。とにかく「今」必要なものだけを作った結果だろう。AIも大型で莫大な電力を食う。
「長門被弾!第二主砲塔損傷です」
決して、第一艦隊が絶対的に優位な訳ではない。
その後も被弾報告は相次いだ。
米軍の艦砲の口径は、日本軍のそれと比べると小さい。被害そのものはそれほど大きくないのだ。だが、確実に継戦能力は削がれていく。
勝てないことはない。だが、これで戦争が終わりではない以上、戦力は十分に温存しなくてはならない。そのジレンマが皆を悩ませた。
「閣下、やはり長期戦となるとこちらに不利です。短期決戦が望ましいかと思います。弾を当てればより被害を与えられるのはこちらです。接近しましょう」
東條中佐は積極的な攻勢を訴える。
東條中佐が提案するのは非常に大胆な策だ。
すなわち、駆逐艦を空母の直掩に残し、巡洋艦、戦艦でもって敵艦隊に突撃し、敵の斜め前目前を通り抜ける。その際に全艦の主砲、ミサイルを斉射。敵に大損害を与えるという作戦である。
前述のように、日本軍の艦砲は「デカい」。それは、非常に強力な攻撃力とともに、装填の遅さも意味する。
それを補うため、この作戦では、ただの一発をもって勝負を決しようという算段である。
「私はとても良い策だと思いますよ。大和も本懐を発揮できますし」
そう言うのは、あまり仕事の無い近衛大佐である。彼は、点検を大和に任せれば、大方の業務はなくなってしまうのだ。
「大佐殿、今回も、大和には、他の艦に合わせてもらいますからね」
「そうか…残念だ」
近衛大佐は、開戦以来一度も全速力を出せない大和が可哀想なのだろう。悲しげな面持ちだ。
「諸君、大和のことは残念だが、良い作戦なのは間違いない。早速、具体策を練り決定次第全艦に通達するぞ」
東郷大将は無情にも近衛大佐を切り捨てた。
さて、具体的な航路、攻撃目標を決定する会議はあっという間に終わった。主に大和が情報を凄まじい速度で整理してくれたからであるが。
また、追加でとある作戦も決められた。
「作戦を開始する。全戦艦、巡洋艦、突撃!」
第一艦隊は全力をもって突撃する。
この作戦の勝敗がサンフランシスコ攻防戦の勝敗を決めるのだ。