ある科学者の記憶Ⅲ
サブストーリーです。
全世界60億人が各々の政府に対し反乱を起こしたという前代未聞の事態は、あっという間に文明を破壊した。
かつては核戦争によって文明が滅びるとは思われていたが、通常の戦闘でも文明は壊れたのである。
そして、それからおよそ100年が経過した。
人類は生存圏を確保し、それなりに暮らしているようだ。
そして、ある科学者は、不老のゾンビライフ100年目を迎えていた。この科学者にとっては、何をやっても文句を言われない世界は地獄などではなく、寧ろ天国のようであった。
そして、科学者は、かつてアメリカ合衆国であった土地を訪れていた。
文明の利器が失われたから、ここまでは徒歩と木製のいかだくらいしか来る手段はなかった。また、科学者は至るところで屍人を使って実験をしており、なんだかんだで100年間ここに来たことはなかったのだ。
「ふう、結構残っているな」
科学者が訪れたのは、ある研究所の廃墟であった。そしてそこは、世界を滅亡させたウイルスの研究所の一つである。何故か米軍がこのウイルスを研究していた訳だが、その理由に科学者は興味はなかった。
科学者が欲しかったのは、研究所に残っている資料の数々である。自信が保持するデータと比べれば、面白いことがわかるかも知れないという純粋な興味であった。
薄暗い地下で、科学者は膨大な資料を読みふけった。幸いなことに、時間は幾らでもあるのであった。
「ほうほう、興味深い。米国の考えることは、僕らとは違うな」
その資料は、科学者を満足させるに足るものであった。何ヵ月か研究所に引きこもっていた科学者は、やがて外を彷徨き始めた。引き続き、外を蔓延るゾンビどもで遊んでやろうという魂胆である。
しかし、科学者の前に一人の女が現れた。
「どーもー。君は日本人かな?」
「そうだが、何だ?」
科学者の前に現れたのは、漆黒のドレスに身を包んだ若い女であった。いや、若いかは見た目ではわからない。科学者も見た目は30代ほどだが、実際は130歳である。
「実は、あなたに用があるんだ」
微笑みながらそんなことを言うその姿に、科学者は見覚えがあった。科学者は、自分の疑問の解消を優先した。
「お前、名前は?」
「名前?うーん、ノン・イラストリアスだよ」
女は、一瞬考え込んだ後、いたずらのように言った。
「ふっ、なるほどな」
科学者は、なにかを察した。科学者にとって、ノンはある意味では因縁の相手であったのだ。
「で、そんな奴が何の用だ?」
「実はね、君に研究室をあげようと思ったんだよ」
「研究室?」
ノンは、この世界で屍人の自分のために研究室を用意したと言った。科学者にとっては、この上ない知らせであった。
「なるほどな。じゃあ、お前について行こう」
これ以降、科学者はノンの元で暮らすことになった。