屍人掃討戦
大阪は、東亜の都市の中でも、特に特異な構造をした都市だ。都市の大部分は淡路島にあるが、四国の北東の端と兵庫の南部も大阪に含まれている。即ち、ビザンツ帝国のコンスタンティノープル(もしくはトルコのイスタンブール)のように、ひとつの都市が海峡によって別れているのだ。
因みに、淡路島では、ハワイ島のように、核攻撃によって屍人は殲滅されている。
ひとまず、第一艦隊は、淡路島に降り立つ。
「流石、大阪ですね。空港が広い」
「淡路島全域に渡る都市だからな。かつての過疎化が、我々の生存領域を確保するのに一役買っているとは、先人は考えもしなかっただろうな」
空港は、帝都のそれより二回りは広く、第一艦隊を収用してもなお、数本の滑走路が残る程だ。
旧文明の時代には、淡路島の人口は1万人を切っていた。その代わり、旧大阪圏には2000万人に迫る人間が暮らしていたが、結果的に、旧大阪は一瞬にして壊滅し、僅かな生き残りがここで暮らし始めた訳だ。
空港に降り立つと、即座に燃料などの補給が行われる。その間、大和では、最後のブリーフィングが行われている。
「今回の作戦では、第一艦隊初となる、空爆炸裂弾を使用する。その為、通常の作戦とは異なる戦術が必要だ」
これまで、炸裂弾を本来の用途である爆撃に使ったことはなかった。そして、今回が初使用である。炸裂弾の使用に際しては、狙いを集中させては意味がない、範囲を攻撃する必要があるなど、通常の対艦戦闘とは異なる運用が必要である。
「では、飛行戦隊の出番はないのですか?!」
神崎中佐は、どうしても作戦に参加したいようだ。
「そうだが、そんなに出たいのかね?」
東郷大将も、神崎中佐の扱いには困るようである。暫く考え込んだ後に、東郷大将は答えを出した。
「艦隊で爆撃をした後に、後詰めで爆撃をしてくれ。いいな」
「もちろん!喜んで、お受け致します」
一応、炸裂弾で爆撃をした後も、生き残っている屍人はいるかもしれない。繊細に爆撃ができる飛行戦隊は、生き残りを焼くように命じられた。
「出発だ。全艦、離陸せよ」
第一艦隊は、すぐに飛び立つ。
今回の戦場は、大阪の本州側の飛び地である。その外壁には、多数の屍人が群がっているらしい。
30分も飛ぶと、その様子が見えてきた。
「これは、初めて見る光景です」
「私もだ。これこそ世界の終わりと言ったものだな」
大阪の北側には、地を埋め尽くす程の屍人が群がっていた。その群れは、遥か遠くまで続いているようで、端が見えない。上から見れば、大阪など簡単に呑まれそうである。
「これは、軍を呼びたくなる気持ちもわかるな」
地上では、防衛隊が屍人を食い止めている。そのままでも恐らくは持ちこたえられるだろうが、そんなことは東郷大将でもしたくない。
「全艦に告ぐ。これより、屍人殲滅作戦、『ケ号作戦』を開始する」
作戦とは言うものの、別段何かと戦う訳ではない。計画通りに、第一艦隊は陣形を展開する。
屍人の群れを半円形に取り囲み、砲撃の準備がなされる。砲は極限まで下側に下ろされ、殆ど地面と垂直になった。
「全艦、撃て!」
東郷大将の号令とともに、すべての砲門が開かれた。砲弾はほぼ同じタイミングで着弾する。それは、一種の芸術のようだ。
着弾した砲弾は炸裂し、それ自信が燃え上がると同時に、無数の破片を撒き散らす。その破片は、屍人を貫き、或いは砕き、群れの大半は2度死んでいった。
全ての爆発は同時に起こり、地上からは眩い光が押し寄せてきた。光のカーペットが、屍人を覆った。
「第二射、放て!」
炸裂弾の斉射は、もう一度行われる。そして、僅かな屍人の生き残りをも粉々にしていくのだ。
その後も斉射は行われる、最終的には4回の砲撃が行われた。およそ1000の砲弾は、屍人をことごとく滅ぼした。
「飛行戦隊、出撃せよ」
空母鳳翔より、およそ100の戦闘攻撃機が飛び立ち、焼かれた大地に向かっていく。
飛行戦隊は、炸裂弾の隙間を見つけては空爆し、屍人を完全に殲滅した。戦闘攻撃機の爆撃は精確であり、屍人に逃げ場はない。
15分もすると、大地は焼け焦げ、地上に動ける屍人はいなくなった。作戦は、1時間もしない内に終了した。
「簡単な仕事でしたね」
「そうだな」
そう言う東郷大将には喜びはなく、むしろ悲痛な表情をしていた。東條中佐は、話題をすぐに打ち切った。
「では、淡路島に戻ろうか」
大阪では、淡路島にしか大きな空港はない。そこで補給を済ませれば、またアメリカで戦争をすることになるのだろう。
東條中佐は、そう思っていた。