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終末後記  作者: Takahiro
1-5_大東亜連合
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休暇終了

崩壊暦214年9月16日07:32


第一艦隊の帝都での休暇は終わった。それは、数日ではあったが、戦争と無縁の数日は、貴重そのものであった。第一艦隊およそ15000名は各々の休暇を堪能したことだろう。


そしてこれからは軍務の再開である。大和の会議室では、多くの士官らが会議を行っている。


「大阪、ですか」


「そうだ。大阪だ」


東郷大将は、新たな任務を持ってきた。大本営からの命令だそうだ。それは、大阪での任務である。だが、東條中佐が訝しんだように、相当に面倒な仕事が待っているのだろう。


「一言で言うと、我々はこれより、大阪を襲う屍人の群れを殲滅する」


東郷大将は、これまた気だるそうに言う。大阪の外壁には、現在、多数の屍人が群がっているそうだ。それを殲滅するのが今回の任務である。


「しかし、どうして私達がそれを?都市防衛隊に任せれば良いではありませんか」


都市には、その都市固有の武力があり、主に屍人を狩る仕事をしている。いくら堅固な外壁と言えど、無数の屍人が群がれば、越えられてしまう可能性もある。それを阻止するのが彼らの仕事である。よって、わざわざ軍が介入する必要はないはずなのだ。


「どうも、今回の屍人は、殊に多いらしい。念のためだそうだ」


「はあ。まるで雑用ではありませんか」


多くの者が苦笑いを浮かべる。艦橋は、呆れ半分、笑い半分といった雰囲気だ。まあ、歓迎はされていないのだろう。


東郷大将の話からするに、第一艦隊は、わざわざ出撃する必要はないようだ。第一艦隊は、帝国に戻ってきてからと言うもの、雑用を任されているばかりである。


「真面目な話をすると、都市に恩を売っておきたいのだろうな、政府は」


この時代、中央政府と地方は物理的に隔絶されており、結びつきは弱い。よって、各都市の自由にできる裁量は大きく、いつも政府と揉めているのだ。特に、帝国第二の都市、大阪となれば、対立も激しい訳である。


「では、私達は、お上の下らない勢力争いに巻き込まれるということですか」


「はは、そうだな。全く、これが民主主義という非効率だ」


「まあまあ、これくらいが人類の限界なのですよ」


東郷大将は、本気で現状を嘆いているようだ。そんな大将が命令を受けた瞬間の呆れようについてついては、推して量るべきだろう。


「まあ良い。大本営が承認した作戦ならば、逆らうという選択肢はないだろう。我々が考えるべきは、如何に作戦を為すかだ」


流石に、今更、大本営に文句を言いに行く訳にはいかない。大和の乗組員は不満を遠慮なく吐き出している訳だが、そんな中でも会議は進んでいった。


大方の流れとして、爆撃用炸裂弾の初実戦がここになりそうである。まさか、対米戦の為に用意した砲弾を、アメリカ大陸で使うことはなく、この帝国本土で使うことになるとは、誰が思っただろうか。まあ、良い訓練にはなるのだが。


「さて、時間だ。近衛大佐、大和の準備は万端かね?」


「ええ、もちろんですよ、閣下」


「結構。これより、第一艦隊は大阪に向かう。全艦、離陸せよ」


空港に集まった第一艦隊は、一斉に主機を起動する。そして、順々に空へと浮かんでいくのである。


一個艦隊だけでも、空を飛ぶ姿は、相当の威容を持っているように見えるだろう。地上には、観艦式の二次会と言わんばかりに、それなりの見物人が集まっている。もちろん、特別観艦式ほどではないが。


「自動航行システムに切り替えます」


「結構」


この時代、飛行機や船の類には、ほぼ全てに自動航行システムが付属している。これは、目的地さえ入れれば、後は全てをこなしてくれる機械だ。但し、敵に襲われる可能性がある敵地などでは使うべきではない。


そして、軍事用のシステムだと、艦隊の陣形も維持してくれるのだ。つまり、これからは暫く暇なのである。


やがて、1時間も進むと、眼下に見えてきたのは「東京」である。そう、旧文明時代の滅んだ東京だ。


「200年の時を経てもなお、旧帝都の偉容は色褪せないですね」


「今となっては、屍人しかいない哀しい都市だがな」


特殊合金でできた摩天楼は、200年間も放置されていたにも関わらず、外観は殆どそのままの姿を保っている。だが、よくよく見ると、殆どのガラスは割れ、地上は破壊の痕が残っている。銃弾、砲弾の痕や、その他の爆発の痕である。それに、幾つかのビルは完全に倒壊している。


「大戦争の痕ですね」


「そうだな」


この死んだ都市を見ると、誰もが沈痛な気持ちに浸ってしまうのだ。これほどの大都市も、たったの2ヵ月で滅びるのかと。


進むと、有名な建物も見えてきた。


「あれは、国会議事堂か」


「ええ」


少し開けた土地に、白亜の殿堂、旧国会議事堂が建っていた。これも、使われていた当時の姿を残している。だが、今は屍人しかいないだろう。いや、光が届かない議事堂には、もはや屍人すら居ないかもしれない。虚しい場所だ。


「帝都の象徴か」


感傷に浸っていると、すぐに国会議事堂は後ろに行って見えなくなった。国会議事堂は、いつまでも静かに佇んでいる。東京の上空は1時間程で通りすぎた。


そして、向かうは大阪である。



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