元老院Ⅵ
サブストーリーです。
その日、皇居は荒れていた。それは、カルガリー攻防戦の翌日であった。元老は皆が不機嫌で、いきり立っていた。
「加藤少将は何をやっとる!」
「そうです。彼女の行為は、我々への背信に等しい」
カルガリーにて米艦隊を壊滅させた加藤少将は、何故か、激しい怒りの矛先を向けられていた。
「確かに、敵に打撃を与えよ、とは言った。だが、あれ程までにすれば、何事もなく帝国軍は勝てるではないか!」
帝国軍が勝てること、に彼らは怒っていた。それは、あまりに理不尽と聞こえるだろうが、彼らの大義の前には、正当なことこの上ないものである。
「落ち着け。お前のような狂犬に、帝国は任せんぞ」
「へ、陛下。申し訳ございません」
元老院の主は、静かに、しかし圧倒的な威圧をもって場を制した。その言葉に、誰もが恐れ慄いた。
「肝要たるは、時局を見極め、施策を熟考することであろう」
「はっ。まさにその通りにございます」
過ぎたことに怒りをぶつけていても、時間の無駄である。彼らは、次の政策を考え始めた。
「では、加藤少将に戦線を拮抗させるよう命じつつ、東郷大将を引き抜き、本国、もしくは大東亜連合内に引き止めておくのは如何でしょうか?」
「だが、どのように引き止めるんだ?不自然に本土に留まらせていては、軍から不信を買うことになるぞ」
「それは、叛乱を起こしてもらう、ことで解決します」
「叛乱?どうして米軍が協力するんだ?」
叛乱とは、東アジア解放戦線のことである。今のところ目立った動きはないが、叛乱を起こそうと思えば起こせる組織だ。それは、元老院も警戒する要素の一つである。
「彼らからしたら、我が軍を妨害しようという純然たる目的で、叛乱を起こすでしょう。つまり、逆に、東郷大将が帰還することを匂わせておけば、それを食い止めるため、米軍はテロに訴えてくるということです」
「なるほどな。それは名案だ。その策ならば、我々の目的を同時に果たせるな」
ある元老は、薄ら笑いを浮かべた。
「では、皆々、宜しいかな?」
元老は、全会一致で頷いた。
「陛下、ご裁可を」
「良い。戦争を長引かせよ」
ここに、新たな奸計が実行されるのであった。