帝都特別観艦式Ⅱ
「さて、只今、空母鳳翔、空母大鳳より飛び立ちますは、帝国最強の航空部隊、第一航空戦隊であります。その銀翼は、幾千の敵機を撃ち落とした英雄の愛機であります」
観艦式の式次第の二番手は、神崎中佐の第一航空戦隊による展示飛行である。
最新鋭の五八式艦上戦闘機120機が、一斉に飛び立つ。そして、空中での激しい旋回等々のアクロバット飛行を行った。
100を超える戦闘攻撃機が一斉に動く姿は実に美しく、東郷大将も、これには見入っているようだ。
特に、翼を一瞬にして回し、空間座標としては停止したまま一回転する様子は、いつ見ても、帝国の技術力を体感するものである。
「やはり、これが一番なのではないか?」
東郷大将は、地味な艦隊よりも、派手な航空戦隊による飛行の方が人気が出るのではとぼやく。
「確かに。艦隊にあんな見事な動きはできませんから。ゆっくりと上昇、降下することくらいしか、ないですからね」
東條中佐は、またもや戦艦に否定的である。まあ、戦艦に見た目の機動性を求める方がおかしいのだが。それでも、近衛大佐は哀愁の念を漂わせている。
やがて、展示飛行はクライマックスに入った。最後は戦闘攻撃機が照明弾を周囲に放ち、その様子はある種の花火のようなものである。
もちろん、照明弾は空港の上空で火を放つ。後で後片付けが大変だろうが、ここでは、御愁傷様と言うことしかできないだろう。
「戦闘攻撃機をこう使うのも、悪くはないな。いや、むしろ、戦争なんてして欲しくないのだがな」
「それはそうですが、軍人となった以上、戦いを避ける訳にはいきません」
「そうだな。せめて、平和を勝ちとる為、早々にアメリカを降伏させたいところだな」
軍人というのがこの世で一番戦争がしたくない職業であるのは、間違いないだろう。彼らからしたら、無駄飯食らいと罵倒される方が、戦争に行くよりましである、
だが、戦争なしに国家は成り立たないのも現実だ。他国の侵略には、命をかけて立ち向かわなければならない。
ちなみに、戦争をしたい職業と言えば、一に軍需会社、二に政治家だろう。
そして、第一艦隊に、神崎中佐らが戻ってきた。戦闘攻撃機は次々と空母に降り立ち、早技で格納されていく。この時代、戦闘攻撃機は垂直離着陸が出来るので、大した飛行甲板は必要ではない。もっとも、垂直離着陸が出来ない機体のため、それなりの飛行甲板はあるのだが。
そして、再び艦隊は前進を始めた。
現在、帝都の南東地区から出発した隊伍は、およそ4時間をかけ、北東地区の北端程にまで来た。この燃料が非常にもったいない気がするが、これもプロパガンダの一端であり、仕方あるまい。
その間、帝都の東部には、幾十万の人が集まった。今日ばかりは、大半の会社に臨時休日とされたのだ。
そして、始まるのは式次第の三番手である。
「全艦、主砲用意」
次は、主砲のデモンストレーションである。帝都北端より、北側。即ち、帝都の外、屍人の領域に砲弾を撃ち込むのだ。
「放て」
東郷大将のやる気のない号令とは裏腹に、艦隊の主砲は凄まじい轟音を上げた。これ程の艦が同時に主砲弾を放つなど、そうそうないことである。
轟音は、帝都の隅々にまで響き渡った。観艦式を見ていなかった者は、近くで爆発でも起こったのかと勘違いした程のものである。
砲弾は無事に帝都の外に着弾し、そこに居た不運な屍人数百を吹き飛ばした。もっとも、70億はいると思われる屍人からしたら、どうでもいい数だろうが。
これにて、帝都特別観艦式のプログラムは終了である。後は、空港に戻るだけである。
「しかし、ビスマルクやプリンス・オブ・ウェールズの主砲は、帝国のそれと何ら変わらないように見えたな」
「帝国も技術供与をしていますが、思ったより早く、ものにしたようですね」
主砲の運用には、やはりそれ相応の経験が必要である。だが、欧州合衆国の戦艦の様子から、彼らの練度は海洋国家の帝国軍にも劣らぬものであると見えた。
「ソビエトや、アフリカの軍艦についても、気になりますね」
「それは、帝国情報部の仕事だな」
「はい。彼らに期待するとしましょう」
ソビエト共和国軍や、アフリカ連邦共和国軍の実力は、全くの未知数である。内戦真っ只中で遠いアフリカは兎も角、ソビエト共和国の軍事力は、直接の脅威となりうる。
「大和、着陸します」
「結構」
大和は、帝都第三空港に降り立つ。これにて、艦船の一般公開は終了である。
だが、東郷大将には、まだまだ仕事が残っている。