帝都特別観艦式Ⅰ
やっぱり、観艦式ってロマンありますよね。
崩壊暦214年9月12日12:00
「本日、崩壊暦214年9月12日、帝都再建二百周年を記念し、帝都上空に結集しますは、総勢102隻の絢爛なる軍艦であります。
まず、その先頭におりますは、連合艦隊司令長官、東郷陸軍大将率いる、帝国陸軍第一艦隊であります。アメリカ大陸にて幾度となく死闘を繰り広げ、ことごとく米帝を殲滅せしその勇姿は、とくと目に焼き付けるべきものであります。また、その旗艦、戦艦大和は、帝国陸軍最新鋭の戦艦であり、各国陸軍より、鉄の芸術と評価されるものであります。
そして、その後ろに控えますは、畏くも天皇陛下の玉体をお守り申し上げる精兵、近衛師団であります。今次の観艦式には、近衛第一艦隊、近衛第二艦隊が参加しております。陛下のお側にあるにふさわしい威風堂々たる姿は、陸軍のそれにも劣らぬものであります。
また、今次の観艦式には、他国の軍艦も参加しております。
欧州合衆国よりは、戦艦ビスマルク、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、空母アークロイヤル、空母グラーフ・ツェッペリン、巡洋艦プリンツ・オイゲンが参加しております。
アラブ連合よりは、戦艦ファイサル、空母シリア、巡洋艦メディナ、巡洋艦ダッカが参加しております。
帝国は、強大な力を以て、世界に平和をもたらさんと欲し、諸国との友愛は、大木のごとく堅固であります」
帝都の上空には第一艦隊や近衛艦隊などの大艦隊が結集した。その目的は、200年前の文明崩壊の時にこの新東京が帝都となった日から200周年を記念するものである。
帝都のテレビでは、あらゆる局がこの様子を中継し、兎に角あらゆるメディアはこの大イベントを伝えている。
帝都に浮かぶ百と十数もの軍艦は、地上から見れば無敵の軍隊に見えるだろう。素人相手なら、これが帝国陸軍の全戦力であると言っても信じさせれそうな程の偉容が、この艦隊にはある。
だが、悲しいかな、この程度の戦力では、米軍には到底太刀打ちできないだろう。この時代は総力戦の時代の再来なのだ。
さて、大和で観艦式を指揮している東郷大将は、臣民の熱狂とは反対に、大層つまらなさそうである。
実際、観艦式の指揮と言えば、あらかじめ艦隊の移動ルートを決めるくらいである。後は、各艦の航行システムが勝手に動いてくれるのである。
また、一番の理由は、東郷大将がこのようなことが好きでないからである。
「しかし、帝国はこれ程の戦力が遊びで用意できるとは、アメリカに送って欲しかったものだな」
大和の艦橋で、東郷大将はため息をつきながら言った。
「近衛は、帝都から離れられませんからね。そもそもの存在意義からして、陛下の御身を守ることですから」
東條中佐も、諦めたように言う。近衛艦隊を動かせば、それは近衛艦隊ではないだろう。
だが、そこで、思わぬ人が返事を返してきた。
「おいおい、私を呼び捨てにするのか?」
声をかけてきたのは、近衛大佐である。
「えっ?ああ、近衛大佐のことではなく、近衛師団のことですよ」
一瞬、東條中佐は、近衛大佐の言い分が理解出来ず、すっとんきょうな声をあげてしまった。だか、すぐに、近衛師団を指すため「近衛」と言ったことが原因だと気づいた。
「ははは、冗談だとも」
「はあ。しかし、近衛大佐と近衛師団は、確かに分かりにくいですね」
艦橋には、笑いが木霊した。つまらない観艦式にもたらされた、数少ない笑いである。
だが、笑いも収まると、あるのは無である。沈黙の艦隊とは非常に聞こえが良いが、つまり皆が暇なのである。
そんな時、東郷大将はある暇潰しを思い付いた。
「大和、聞こえるか?」
「はい、閣下」
東郷大将が適当に声を出すだけで、大和はすぐに応じた。つくづく、優秀なAIである。
「地上の様子をモニターに写してくれ」
「了解しました」
本来、飛行戦艦から下を見ることは想定されていない。現在、大和の艦橋からは、ただただ動かない飛行艦だけが見えているのだ。
「これはまた、すごいことになっているな」
レーダーで確認してされた地上の様子が、メインスクリーンに写し出される。
そこからは、無数の人々が旗を振り、熱心に艦隊に声援を送る様子が見える。また、多くの屋台も出ており、帝都は一種のお祭り騒ぎとなっていた。
「きっと、みんな、この大和に興奮してるんですよ」
「それは、考えにくいですね、大佐。大和の外見は、他の戦艦と大差ないですから。単純に、この巨体な艦隊に感心しているんでしょう」
「そ、そうか。そうだな」
考えなしに事実を指摘してしまった東條中佐の言葉は、近衛大佐の心に突き刺さったようだ。近衛大佐は、悲しい顔をしている。
そもそも、帝国の戦艦は、大和をモデルに製造されたのである。色々と似ているのは、仕方ないだろう。
そして、艦隊は、なおも進み続けるのであった。