聞き取り調査
帝都に向け、大和は飛行している。現在、大和は日本列島の上空に入り、津軽海峡の都市、函館の近郊を飛行中である。
大和には、無駄に船室が多い。これは、旧文明時代の名残である。そして、余った船室の1つは、屍人の少女コウの私室となっている。それ程までに、大和は大きく、人類は減ったのだ。
さて、コウの部屋の前には、訪問者が立っている。コウを発見した、佐伯少尉である。
佐伯少尉は、ドアを軽快にノックする。
「ああ、陸軍少尉佐伯だが、入っていいか?」
「いいよ。どうぞ〜」
中からは、相変わらず気の抜けたコウの声が返ってきた。その様子に安心しつつ、佐伯少尉はドアを開ける。しかし、一瞬にして閉める事になる。
「ちょっ、君!何でいいよとか言ったんだ」
中では、何事も無かったかのように、コウが軍服を着替えていた。一瞬だが、コウの下着を見てしまった気がする。さしもの陸軍少尉も、それには尻込みする訳である。
「えっ?ああ。なんか、ごめんね」
「はあ。今度は、ちゃんと準備してからいいよと言ってくれ」
「うん」
佐伯少尉は、ドアの前で大きくため息を吐いた。そして、しばらく待つと、再び入室許可が出た。一応、佐伯少尉はゆっくりとドアを開ける。
「おお、似合ってるじゃないか」
今度こそ、コウは、ちゃんと支度をしていた。コウが来ているのは、とある暇な軍人がデザインした、紺の軍服もどきである。だが、もどきとは言っても、本物並みの機能性を持った優れものである。
「おお、ありがとう!」
コウは喜んでいるようだ。さて、佐伯少尉は椅子に腰掛け、コウはベッドに座り、2人は向かい合う。
「まずは、そうだな、君に謝罪しなければならないな。デトロイトでは、君に銃を向けてすまなかった。帝国軍人として、民間人に銃を向けるなど、あってはならないことだった」
「まあ、帝国がどうとかいうのはよく分かんないけど、ボクは生きてるんだし、問題無しだね」
「そうか。君がそう言うならば、そうだな。君が傷ついていないようで、私は安心したよ」
佐伯少尉は、東郷大将の職権濫用紛いの人事によって、コウの世話係的な役職に任命されてしまった。一応の扱いとしては、何と、艦内の掃除係である。
そして今回は、落ち着いて話ができる、最初の機会であるのだ。コウからは、帝国軍の誰も知らないような事実が飛び出して来るかもしれない。
「とりあえず、そうだな、都市の外で、他に人と会ったことはあるか?」
「あるよ。そもそも、最初はたくさんの人といたし、後は4人くらいに会ったかな」
「沢山の人、とは?どうして別れたんだ?」
「ああ、その、殺された」
その時、コウの顔が一瞬暗くなった。
「そ、そうか。すまないな」
「実はね、殺したのは飛行戦艦なんだよ」
「飛行戦艦か。それは……」
今コウが乗っているのもまた、飛行戦艦である。佐伯少尉は、空気がだんだんと気まずくなってくるのを感じた。
「他は、どうなんだ?」
佐伯少尉は話を進める。
「そうだね、なんか、そうだ!前に、いっぱいいる人を見つけたよ」
「つまり、君たち以外のグループってことか」
「うん」
「いつだ?」
「割と最近かも。大体、何年か前」
コウ以外にも、意思を保った屍人は存在するようだ。しかも、コウの証言からすると、明確な序列を保った組織があるようだ。それが動くとなると、帝国の国防にも関わる。
「それで、他は?」
「イシイって人と、ノンって人だね」
「前に君が言っていた人か」
イシイとノンが、直近に会った人らしい。そして、コウは、なかなかに興味深い話を始めた。
「どうしてこれ程の戦艦が造れるのか。どうして人は屍人を殲滅しようとしないのか、か」
確かに、世界の列強は、狭い都市に引きこもっておきながら、大量の艦を建造し続けている。都市地下採掘場、都市外無人採掘場、海底からの採掘など、あらゆる方法で人類は鉄を手に入れているが、確かに、疑問に思わなくはない。
屍人を殲滅しようとしない理由は、屍人があまりに多すぎるからだろう。
「私は、ただの下士官に過ぎないからな。そういうことに関しては門外漢でね」
「そう。まあ、いいや」
「そうだな。今日は、この辺にしとこう」
「うん」
だが、佐伯少尉は突然に、何かを思い付いたのか、手を叩いた。
「そうだ。今、大和は帝都東京に向かっているのだが、君も帝都に行かないかい?」
「東京?何するの?」
「帝都で、まあ平たく言えば、遊ぶな」
「おお、それはいいね」
コウは、すぐに賛同した。そして、大和と第一艦隊は帝都に迫っていくのである。