ベルリンの夕闇
サブストーリーです。平和な帝国軍とは違い、欧州は絶望してます。
「私たちは、もはや……」
ドイツ州南端、旧トルコとの旧国境付近で、ヘス総統ら、NSEAPの党員は、失意に沈んでいた。
彼らは、屍人の領域にも着地出来る特殊艦、Bボートに乗っていた。この艦は、全長45mとかなり小型であり、更には主砲と呼べる大口径砲を持たない、独特なデザインの艦である。
しかしながら、この艦の特徴は、艦の下側の装甲が最も分厚いことにある。戦闘では役に立たないこの装甲は、屍人の領域に着陸する為だけに作られたものだ。また、全体に装甲が厚く、その姿は装甲艦と比喩されるものでもある。よって、普通なら生きていけない都市の外で、暫くは行動できる。
だが、そんなことはどうでもいいのであった。
1週間前、彼らはベルリンで武装蜂起を起こした。一瞬にして政府主要機関を抑え、革命は成功すると思われた。だが、それらは全て仕組まれたことだった。ベルリンから他の都市への通信は一切遮断されており、革命は一切伝播しなかった。
そして、最悪だったのが、アメリカ軍の介入である。日本と戦争してるとは思えないほどの大戦力が、ベルリンを取り囲んだ。降下してきた米兵は次々と人々を虐殺し、革命は一瞬で踏みにじられた。ベルリンは飛行戦艦に焼かれ、多くの人々が路頭に迷うこととなった。
多くのベルリン市民の挺身により、ヘス総統以下の幹部はある程度逃げられた。党の枢要は、未だに健在である。だが、党は多くを失った。
「総統閣下、今は待つのです。いつか必ず、この国を正す時が訪れます」
「ありがとう、クビツェク。ええ、その日を待ちましょう」
クビツェクは、ヘス総統の腹心の一人である。その所作は優しい青年のようで、血気盛んなヘス総統を抑えられる数少ない党員の一人だ。
「かつて、ヒトラー大総統は、ミュンヘン一揆で投獄された後に、ドイツ第三帝国の栄光を築き上げたのです。彼にできたならば、ヘス総統閣下にも必ずや成し遂げられます。」
「しかし、私ごときが、ヒトラー大総統に及ぶ力を持っているとは……」
「いえ!総統閣下の求心力は、ヒトラーに及ぶものです。現に、総統閣下は、たったの2、3ヵ月で、殆どのベルリン市民の信頼を勝ち取ったではありませんか。ヒトラー大総統ですら、それほど短い時間では、なし得なかった」
いつもは、ひたすらに前進するヘス総統をクビツェクが抑えるところだが、今回ばかりは真逆のようであった。クビツェクは、ヘス総統を鼓舞した。
「ありがとう。私も、弱気になっていたようです。アデナウアーを倒し、この国に光をもたらす為、必ずや、一党独裁体制を作らなければなりませんね」
「はい。後は、いつものようにやってください」
ヘス総統は、目が覚めた。たったの数ヵ月で、市民は彼女を指導者と認めたのだ。ならば、再起できる可能性は尽きてはいない。政府への反感も高まっている頃だろう。
「闘いましょう。最後まで」
彼女らの決意は固まった。彼らが皆死ぬその日まで、彼らは闘い続けるだろう。