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終末後記  作者: Takahiro
1-4_米軍の反撃
124/720

消耗戦

「全艦、主砲撃て」


連合艦隊の戦列艦より、米艦隊に砲弾が放たれた。しかし、その音は少ない。現状、対空砲弾の使用と草薙の剣の隠蔽のため、使える砲は全体の半分程度である。


よって、ただでさえ射程の限界を攻めているこの状況では、弾があたるのには期待できない。


「命中、2です」


「結構。端から当てる気などない。構わんさ」


その後も、暫くは連合艦隊の砲撃が続く。だが、敵に被害はなく、また、敵に影響はないようである。それは、東郷大将の想定内である。


艦橋では、迫り来る米艦隊の前に、緊張の糸が張り詰めている。そして、東郷大将は次の指示を下す。


「全艦、敵と同じ速度で後退せよ。敵との距離は現在のものを維持し、横陣も崩すな」


敵の射程にこちらが入ったところで、東郷大将は戦線を後退させる。これで、こちらの艦砲のみで敵を撃てる状況が続くだろう。そして、連合艦隊は、()()()()()()()後退する。水に浮いていない艦隊は、横向きに進むことも可能なのだ。散発的な砲撃を継続しつつも、両者の距離は縮まない。そして、弾も当たらない。


「閣下、陣形は維持で宜しいのですか?天雷作戦の通りでは、陣形を崩すべきだと考えますが」


東條中佐は、既に作戦と矛盾している東郷大将の指揮に疑問符を投げ掛けた。もっとも、何か考えがあるだろうとは確信しているが。


「そうだな、こうするのは、敵を煽るためだ。中佐、敵も人間だ。中佐とて、敵に不愉快になれば、判断が鈍るだろう。まだ、カルガリーまでは50kmはある。気長に行こうじゃないか」


東郷大将は、まるで仁を説く孔子のように説明した。敵は、決して合理的に振る舞うだけな訳ではない。人間ならば、判断ミスなど往々にしてあり得るのだ。


「なるほど、理解しました、閣下。私は焦っていたようです。以後、肝に銘じます」


「結構」


東條中佐は、合点が入ったようだ。この速度で行けば、カルガリーまでは2時間はかかる。今すぐに攻勢に移る必要はないだろう。


そして、両軍の消耗戦は続いている。両軍とも射程の端で敵を攻撃している為、殆どの砲弾が無駄弾となってしまっている。だが、確実に被害は出ており、また、現状では連合艦隊のキルレシオは3:1程度である。日本艦隊の方が、砲撃戦は得意なのだ。そして、この状況を見れば、アメリカの指揮官は攻撃を決意するだろう。


「敵は、動きませんね」


制限時間の半分、1時間を過ぎてもなお、敵に新たな動きは見られない。東條中佐は、敵の挙動に不安を覚え始めている。


「まだだ。敵の指揮官は相当優秀と見えるが、それとて人間に違いない。もう暫くは、敵に出血を強いる」


既に、米艦隊の前面は、いくつかの艦が脱落する被害を受けている。だが、敵がこちらに総攻撃を仕掛けてくることはなかった。当然、ケラウノスも未だに使われていない。


「了解しました」


「結構。だが、戦闘の準備はすべきだな」


東郷大将も、戦闘が近いとは思っているらしい。


「神崎中佐には、航空艦隊の出撃用意を。艦隊には、対空砲弾の準備をさせておけ。それと、第六艦隊以外には、引き続き草薙の剣の偽装を続けさせろ」


各空母では、艦載機がいつでも飛び立てるようにまで準備された。そして、未だに使っていない草薙の剣の張りぼては、まだ使用禁止である。


「カルガリーより15kmの地点で、天雷作戦の第一段階を開始する。全艦は、作戦に忠実に行動せよ。また、第六艦隊には、特別の活躍を期待する」


第六艦隊は、草薙の剣の本物をもった、今作戦の要である。また、作戦にミスは許されない。これは諸刃の剣であり、失敗すれば、こちらが殲滅され、ひいては帝国の滅亡をも招来しかねない代物だ。


いや、帝国の滅亡は言い過ぎかもしれないが、東郷大将は、それほどの心意気で天雷作戦に望んでいるのであった。




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