カルガリー航空戦
崩壊暦214年8月24日11:54
「敵艦載機、来ます。数は450」
「そう来たか。こちらも、そうだな、アイゼンハワー級からのみ艦載機を出し迎撃せよ」
アイオワでは、一向に変わらない戦局を、チャールズ元帥が見守っている。そしてついに、敵が大胆な攻撃を、艦載機をもって仕掛けてきた。
こちらは、歴戦のリンカーンやケネディ等の空母より、およそ700の戦闘攻撃機で対応する。
「あと5分で接敵します」
「ああ、了解だ」
両軍の距離はおよそ100kmであり、その距離ならば、およそ10分程度で渡れる。時速に換算すれば、およそ600kmといったところである。つまり、案外この時代の戦闘攻撃機は遅いのである。
その代わり、機動性能が頭がおかしいところまで発達している。鉛直落下や、直角に近い旋回などお手のもの。その場で反転したり、ヘリコプターのような軌道も描ける。それに、そもそも論だが、実際にドックファイトを挑む時は、大した速度では戦わない。
では、何故そんなものがいる時代に戦艦などあるかといえば、対空砲や対空ミサイルも恐ろしい性能になっているからである。
「敵は450程度か。やはり、これも陽動だな」
「私も、そう考えます、閣下」
敵の戦力では、すべてで700機は戦闘攻撃機がいるはずなのだが、どうも全力は出さないらしい。対して、こちらも手抜きで迎撃する。戦術的に予備を残さなければ、後の禍根となりかねない。
だが、敵がこちらを挑発するため戦闘攻撃機を差し向けて来たのは間違いない。
「迎撃し次第、すぐに戻るよう伝えてくれ」
「承知しました」
別段、敵を殲滅するつもりはない。それに、敵が被害を被ったら、すぐに退くだろう。
そうこうしているうちに、敵軍はすぐにやって来た。
アイオワから見える450の敵機は、何をしても対抗できないよう偉容を持っている。しかし、米艦隊の戦闘攻撃機もまた、それに倍する偉容をもって、敵と衝突する。
艦隊からは、対空ミサイルや対空電磁加速砲で、最大限の援護がなされ、敵は砲火を浴びている。しかし、その殆どはかわされ、僅か10機ほどが撃墜されたのみである。
そして、すぐに両軍は、空において激突する。両軍の戦闘攻撃機は、極めて複雑な軌道を描きながら、互いの背後を狙っている。そして、あちらこちらに撒かれたミサイルは、殆どが回避されている。
だが、敵は、全体的に逃げに徹しているように見える。
「被害は何機だ?」
「現在、8被撃墜、10撃墜です」
「まったくの膠着だな」
戦闘か始まりおよそ10分、敵味方ともに落とされた戦闘攻撃機は僅かである。敵は、こちらの攻撃を躱すのにしか興味がないようだ。
「このまま敵とのおいかけっこを楽しむか、増援を出すか、か」
「閣下、我々が負けていない以上、増援は不要でしょう。現状を見守るのみです」
ハーバー中将は、状況はこれでよいと提言する。負けることはまずあり得ない上、残りの敵戦闘攻撃機150も気になるからである。
「敵の一部が撤退しています。数は100」
「敵艦載機が出撃しました。数はおよそ100」
敵の一部が、戦線を抜け始めた。そして、それとほぼ同数の戦闘攻撃機が離陸したとのことだ。
「このまま永遠に攻撃し続けようとでもいうのか」
「そうやもしれません。敵の狙いは、こちらを消耗させることでしょう。そして、恐らくこれは挑発でしょう」
敵は、撤退と出撃を繰り返し、断続的にこちらに戦闘攻撃機を送り込み続けるつもりらしい。確かにこれなら、半永久的に米艦隊を攻撃し続けられる。
しばらくすると、敵の一部が交代し、なおも空で暴れ続けている。
「しかし、これはうざったいな。被害は殆どないが」
「限定的に敵を攻撃しましょう。敵に攻めかかれば、この状況も変わるかと」
「そうだな。では、予備隊250を、敵艦隊に向かわせよう。現在の戦闘空域を迂回し、敵を攻撃せよ」
米艦隊には、未だ豊富な戦闘攻撃機が待機している。これで敵艦隊を叩けば、そこそこの被害は与えられるだろう。また、敵は艦隊に戻るはずだ。
米艦隊の後方より、更なる航空部隊が羽ばたいた。