炸裂弾作戦
崩壊暦213年12月10日23:15
大和艦内にて。
「敵が攻撃を開始しました。火器管制システムを起動します。迎撃開始はおよそ182秒後になります」
「結構」
大和の乗組員はアイオワの事情を知るよしもない。彼らは、突然米軍が姿勢を変化させたことに疑念を隠せないでいた。
しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。作戦に失敗は許されないのだ。
既に、敵はすぐそばまで来ている。
「大和、炸裂弾の用意は万全か?」
「はい、閣下」
大和の返事は無感情だが、それ故に心強くもある。
東條中佐の作戦の為、全戦艦及び巡洋艦の主砲の制御は、大和に委譲されることになっている。この作戦の第一段階は大和の手に委ねられているのだ。
「炸裂弾を撃った後は、各艦に迎撃を任せる。また、神崎中佐と松原中佐には、直ちに艦載機部隊を出撃させよ」
『了解!』
かくして、戦闘は始まった。
「距離7km、発砲まで5、」
大和がカウントダウンを始める。
「4、」
敵はもう攻撃予定範囲の目前である。
「3、」
東郷大将までもが、成功を固唾を飲んで祈っている。
「2、1、」
緊張は極限に高まる。
「攻撃」
大和は無感情に声を上げる。
その瞬間、数十もの巨砲が一斉に火を噴いた。轟音と衝撃が艦隊を包む。
そして、次の瞬間、設定された地点で砲弾は次々と炸裂し、一帯をオレンジに染めていく。その炎に米軍機は抗う術もなく巻き込まれていく。
その瞬間は、夕日が地上に訪れたかと見紛うほどのものであった。
その夕日に米軍機は吸い込まれていく。
「やったぞ!」
「ええ!」
「はい」
艦橋は歓声に包まれた。
「諸君、喜ぶのはまだ早い。全艦、迎撃を開始せよ」
そう、確かに東條中佐の作戦は大成功だが、それで敵が殲滅された訳ではない。条件を多少有利にしただけである。
各艦はそれぞれの個艦防空システムを作動させ、迎撃を開始する。
無数の対空ミサイルが前方の米軍機に向かい飛んでいく。ミサイルは群れをなし、次々と米軍機に襲い掛かる。
また、各艦の対空電磁加速砲が火を噴き、米軍機に弾丸の雨を降らせる。もっとも、電磁加速砲は実際に火を噴きはしないが。
無数のミサイルと機関砲弾は、空を更に昼間のように明るくしていく。常人ならこんな場所に飛び込んで生きて帰れるとは、まず思わないだろう。
だが、その大半は当たらない。
この時代の戦闘攻撃機は、その機動力から、ミサイルや砲弾をかわすのは容易である。
それでも一部の弾は敵機を撃墜していく。やはり、数こそ力であった。
加えて、炸裂弾攻撃で混乱の渦中にある米軍機は、既に組織的戦闘力を喪失している。米軍は、各機の個人プレーで何とか攻撃を続行しているといった状況だ。
近代の戦闘において、連携しない軍隊などただの暴徒である。
「直掩隊は艦隊前方に戦力を集中。敵を殲滅せよ。また、神崎隊は敵後方より攻撃。一気に敵を切り崩せ!」
東郷大将は戦闘指揮を怒涛の勢いで続ける。
「全機、A3空域を離脱。長門、金剛は対空制圧。榛名は大鳳の守りに入れ」
「敵機、撤退していきます」
「よし。航空艦隊は追撃。但し、敵の防空圏に入ったらすぐに戻ってこい。全艦、前進!」
第一艦隊は動き出す。
敵航空艦隊は壊滅した。ついに、戦艦対戦艦の砲撃戦が始まるのだ。