東條の作戦
「敵は動かんか」
「はい、閣下」
第二艦隊が敵に攻撃を仕掛けてより2時間。敵に動きはなく、膠着状態が続いている。
また、カルガリー攻防戦の最初の数時間は激しいミサイルの応酬があったものの、今では、その数は半減どころではない減りようとなっている。
この程度のミサイルならば、撃とうが撃たまいが何も変わらない。戦闘は徐々に、ただの睨み合いの様相を呈してきている。
そして、およそ9時間が経った今も、轟沈した艦がないという、驚愕の事態となってもいる。
この状況の打開に向け、大和の艦橋では、簡易的に作戦会議が開かれている。
東條中佐は、ある作戦を提案する。
「閣下、ここは、神崎中佐に働いてもらいましょう。敵に断続的に被害を与え、攻撃を誘発します」
「確かに、妥当だな」
東條中佐は、サンフランシスコの時のように、航空艦隊をもって、敵を挑発しようと提案する。そうすれば、敵は、艦隊から湧き出てくる艦載機を抑える為、連合艦隊に総攻撃をかけてくるだろうというものだ。根本的に、純粋にやり合えば米艦隊が勝つという事実も、これを裏付けている。
「だが、敵の考えを察するに、敵は、こちらの秘密兵器に警戒している筈だ。そうすると、多少の被害程度ならば、度外視してくるやも知れん」
敵は、恐らく草薙の剣の能力を把握していない。実際は射程3kmの残念兵器だが、「プラズマ砲」という文言のみが割れたおかげで、敵はこれを恐れているだろう。もっとも、東郷大将が同じ立場なら、同じ反応をするだろうが。
「いっそ、大和で一騎当千をかましてやるのは、どうでしょうね」
近衛大佐は、なかなか率直な策を提案する。
「悪くはないが、大和が沈むかもしれんぞ」
「いえいえ、この大和が沈むことなどはないですよ」
近衛大佐は、やけに自信満々である。確かに、大和は世界に極めて僅かしか残存しない旧文明の兵器であるが、あくまで一兵器に過ぎない。大和は、決して、神の聖遺物などではないのだ。
「だが、そうそう沈まないのは確実だからな。いっそ、大和で突撃を………」
「閣下!」
東郷大将がやけに乗り気なのを、東條中佐は遮った。
「閣下、大和が沈む沈まないの話ではなく、閣下がここにいらっしゃることが問題なのですよ。もし、閣下が戦死すれば、連合艦隊の命運は終わるのですよ」
「そうだな。今回は、自重するとしよう」
「ああ、大和の活躍はお預けでな」
「はあ、頼みますよ、閣下、大佐」
東條中佐は安堵している。たまにハメを外す東郷大将と、それに拍車をかける近衛大佐は、艦隊の重鎮にして、最大のトラブルメーカーである。そして、数少ない真っ当な人間を自負する東條中佐は、これを抑えるのに一苦労である。
「如何しますか、閣下?私としては、慎重策を取っていただきたいところですが」
「結構だ。最悪、失敗しても、こちらに損害はないな」
会議の流れは、大方、慎重策、つまり東條中佐よりで進む。時折、近衛大佐が恨めしそうにこちらに振り返ってくるのだが、気のせいだろう。
「では、神崎中佐に出撃命令を出そうか。また、あくまで、敵を挑発するまでが任務であると、確実に伝えよ」
航空艦隊は敵を攻撃する予定だが、損害を与えることは目的ではない。あくまで、敵を挑発するとが目的である。
敵がのこのこと来れば、天雷作戦に則り、敵を罠に嵌めれるのだ。
果たして米艦隊はこれに気づくか、連合艦隊には知りえない未来である。




