元老院Ⅴ
サブストーリーです。
「将門の末裔にして、日本国王陛下。お初にお目にかかります。私は、フォルクハルト・イルクナーと申します。以後お見知りおきを」
皇居の地下。人工の照明だけに照らされた議場では、恒例の秘密会議が開かれていた。だが、今回は珍しく来客が訪れていた。
黒い燕尾服に身を包み、シルクハットを被ったその男は、帽子を手に持つと、恭しくお辞儀をした。その様子からは、圧倒的な余裕が感じられた。
だが、男が挨拶をした途端、華族たちは一斉にいきり立ったのだ。
「貴様!陛下を愚弄するか!」「現人神にあらせられる陛下に、何という無礼を言うか!」
一斉に浴びさられた罵倒にも、男は一切怯まなかった。むしろ、曲芸を鑑賞するように、華族らを眺めていた。そして、この場には、一切動じないものがもう一人いた。
「静まれ、お前たち。イルクナー卿に無礼であろうが」
「こ、これは、陛下。誠に、申し訳ありません」
天皇その人の鶴の一声で、イルクナー卿を罵倒する声は消え去った。そして、天皇はイルクナー卿に語りかけた。
「私が天照の血を引いていないことなど、私はとうに自覚している。そして、血脈などというものは、論じるに値しない下賤なものに過ぎない。真に賢いものこそが、神国日本を継ぐべきである。で、あるから、私の出自など、いくら嗤おうが、私は気にしない」
「ほう、陛下は、誠にご立派な指導者であられるようだ。血脈を唾棄するそのお考え、このイルクナー、感服致しました」
上っ面では天皇を賞賛しているが、誰の目から見ても、それが皮肉であることは明らかだった。
「まあ良い。それで、イルクナー卿、ここに来たのは何故か?」
「率直に言いますと、私は、この大日本帝国に世界の覇権を握って頂きたく、ここに訪れました」
「ほう、世界の覇権とは。どういう風の吹き回しか?」
「実は、私、先日に、アメリカ連邦の指導部とも接触して参りました」
議場は再びざわついた。しかし、再び天皇がそれを止めた。
「それで?」
「私が見る限り、アメリカ連邦の指導者は馬鹿どもの集まりでした。やはり、民主主義国家の指導者、民主主義は腐るものです。だが、貴方がたは、権力を保証されている身。つまり、支持率など気にせず、最善の政策を選べる。そのような者こそ、世界を主導するに相応しいのです」
「なるほど、要求は理解した。では、イルクナー卿は、何をせよと言うのか」
「私は、陛下の力を増すことができます。そして、最強の黄泉兵をお作り下さい」
「ふむ、わかった」
「ありがとうございます。では、また後程」
イルクナーは、恭しく令をすると、議場から退出した。