睨み合い
「よし、小手調べといこうか。全艦、対艦ミサイル斉射!」
チャールズ元帥は、ひとまずは対艦ミサイルをぶち込むよう命令する。
横に広く並んだ陣形から、光の絨毯が広がっていく。その姿は、素人目からしたら、死を覚悟するほどだろう。だが、実際は大した脅威ではないことは、両軍とも理解している。
日本軍の対空砲弾は、群がる光の線を、赤い炎の壁でもって遮る。壁をすり抜けたものには個別で対空ミサイルや対空砲が放たれ、米軍自慢のミサイルが与えた被害は数隻の巡洋艦の装甲に傷を付けた程度に過ぎない。だが、チャールズ元帥は、日本艦隊の奇妙な点に気付いた。
「奴らにしては、対空防御がなってないな。プラズマ砲を配備した弊害か?」
確かに、米艦隊としては一段手抜きのミサイル攻撃でも、多少ではあるが被害は与えられたのには違和感がある。いつもの日本艦隊なら、これほどのミサイルが艦隊を襲うのを許さない筈である。
「恐らくは。敵にプラズマ砲らしきものが見当たらない以上、敵は、主砲の一部を換装したと思われます。」
プラズマ砲の情報は入っていたが、具体的にどのような見た目をしているかは確認できていない。敵がプラズマ砲専用の艦を建造してくることも考えられたが、それらしきものは見当たらず、レーダーに映るのは、既知の艦影ばかりである。ならば、敵の主砲がプラズマ砲なのだろう。ハーバー中将は、こう言った。
「逆に、現状の優勢は、敵にプラズマ砲がある証拠になるかもしれん。プラズマ砲に関しては、十分に注意を払うべきだな」
「はい、閣下。常に敵を観察し続けることが肝要でしょう」
敵にプラズマ砲があることは堅い。であれば、決して敵は侮れないと、チャールズ元帥とハーバー中将は合意を得ている。
「先程と矛盾するやもしれませんが、プラズマ砲というものの射程について、技術部から報告がありました」
「ああ。例え敵が、かのナチスドイツほどの先進技術を持っていても、射程が10kmを超えはしないというものだな」
ナチスドイツは、460年前の第二次世界大戦当時、頭がおかしいほどに進んだ技術を持っていた。例えば、アメリカとソ連は、大戦の20年後には宇宙に飛び立ったが、その技術は、連合国がナチスドイツから奪ったものである。世界初の弾道ミサイルや、ジェット戦闘機などは、ナチスドイツの優秀さを示すだろう。もっとも、ソ連の物量には勝てなかった訳だが。
即ち、日本軍が今から10年進んだ技術を持っていると仮定しても、プラズマ砲の射程は10kmを超えないということだ。プラズマ砲弾を長時間稼働させるのは、世界のどの国でも、非常に困難な試みである。
「敵がその程度であるならば、ある程度は接近すべきでしょう。我々の数の利を生かし、敵の戦力を削ぎ落とすのです」
今の状況では、一向に勝利が見えない。ならば、最低限接近し、砲撃戦でもってカタをつけようという訳である。
「よし、では、陣形をそのまま前進させ、距離を25kmまで詰めろ」
空中で静止していた米艦隊は、チャールズ元帥の号令で動き出す。
しかし敵は、何の反応も示さず、適当にミサイルを迎撃するのみである。だが、そんなことを気にしている場合ではない。一抹の不気味さを感じつつも、米艦隊は日本艦隊に迫るのである。
連邦市民の為、チャールズ元帥は戦い続ける。