カルガリー攻防戦、開始
「敵を探知しました」
「なに?早くないか?」
米艦隊の現在位置は、カルガリーより350km付近である。そして、レーダーの探査距離は300km程度である。つまり、敵は、カルガリーから50kmは離れた位置で待ち構えているということだ。
この世界では、あらゆる艦の装甲に電波吸収体が使用されており、レーダーで敵を捕捉するのは困難である。レーダーの技術も旧文明のもの並みであるが、今のところ電波吸収体の性能の方が格段に上であるため、21世紀のレーダーよりも遥かにレーダーで探査できる距離は短い。それでも、目視よりは遥かに遠くを見通せるが。
本題に戻ると、都市から50km離れているということは、対艦高射砲などは捨て去っているに等しい。こちらが戦力では上回っている以上、この条件では敵が不利になるだけである。
「敵は遅滞戦闘でもするつもりなのか?」
「恐らくは、何らかの妙をもって、接近戦に持ち込むためでしょう。都市の上では、大きな機動ができません」
ハーバー中将は、日本艦隊の意図を即座に読み取る。
敵の勝機は、如何に接近するかにあると思われる。これほどの距離があれば、都市に退きつつ、上手く接近する策をとれるかもしれない。古代の平原での戦いのようなものが、新暦の3世紀の今に再現されるかもしれない。何せ、空には地形的な障害は一切ない。
「つまり、敵に近寄らなければいいんだな」
「はい、その通りです」
「ならば、やはり、敵をちまちまと削るしかないか」
「はい。常に敵から距離を取り、砲撃とミサイル攻撃に徹すれば、我が軍に利はあるでしょう」
敵は、恐らくはガウガメラの戦いのような逆転劇を繰り出して来るだろう。だが、敵の手に乗らず、ひたすらに距離を取り続ければ、米艦隊の勝利は確実と思われた。
因みに、ガウガメラの戦いとは、アレクサンドロス大王が大国ペルシアを滅ぼした戦いである。
「ケラウノスを用い、敵の対空能力を飽和させるとともに、砲撃を続ける、くらいしかないか」
「はい。ケラウノスの配備はまだ完全ではありませんが、艦隊の対艦ミサイルと合わせれば、およそ事足りるでしょう」
既に、カルガリーには、ありったけのケラウノスを運び込んである。これと艦隊のミサイルを合わせれば、スペシガンの時のように、敵にミサイルをぶちこめるだろう。
「閣下、あくまで、カルガリーを奪還すれば良いのです。わざわざ敵を殲滅する必要はありません。敵の継戦能力を削ることだけを考えるべきでしょう」
「ああ、そうだな」
米艦隊は、なおも進み続けた。そして距離は近づき、敵の詳細が見えてきた。
「敵は、我々と同じく、艦隊を右翼、左翼、中央に分けているようです」
「そうだな。こちらは、敵とちょうど対称になるよう、陣形を組もうか」
「承知しました」
敵は、明確に3つに別れている。空母を中心とした纏まりが、分かりやすく区切られているのだ。
対して、米艦隊は、全く同じ陣形を作り、敵に相対する。これは、敵に一切の隙を見せない工夫である。
「これはまた、サンフランシスコを思い出す光景だな。立場は逆だが」
「はい。戦力がおよそ3倍となりましたが、サンフランシスコを思い出すものです」
サンフランシスコでは一個艦隊同士が睨みあっていたが、今回は、三個艦隊同士がにらみ会う。この戦争も白熱してきたものだ。
「それでは、日本軍にならい、ミサイルの射程に入ったら止まるとしようか」
「はい。いい作戦です。承知しました」
チャールズ元帥は、日本軍への意趣返しをしてやるつもりである。いつもはそのようなことを気にしないハーバー中将も、今回ばかりは、乗り気なようである。承知の声からは、どこか黒い笑いが感じられる。
そして、両軍の距離は100kmを割った。